タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

人それぞれに感じ方は異なると言うが

 里帰りしている孫は毎日毎日新しい言葉を覚えている。TVでは「どんな色が好き?」という幼児向けの歌があるが、孫の様子を見た感じでは、赤と青と黄色の区別がついてきたようであり、色弱でなくて良かったと思っている。ヒトには、3色の色を知覚するために必要な3種類(赤、緑、青)の視細胞があり、それぞれの光受容タンパク質を生成する3つの遺伝子により、3色を見分ける能力が備わっていることになる。色弱は男性に圧倒的に多い病気で、日本人男性の20人に一人の割合で存在する。
 なぜ男性に多いか? その理由は、色覚遺伝子3つの内2つが性染色体であるX染色体上にあるからである。遺伝子に異常があると光受容タンパク質を作れず色弱になるのだが、女の場合はX染色体を2本持つため、たとえ片方の遺伝子に異常があっても、もう片方の遺伝子がカバーしてくれるので色弱にはならない。ところが男はX染色体を1本しか持たないので、その上にある遺伝子に異常があると色弱になってしまう。孫(男児)が色弱でないということは、孫のX染色体上の遺伝子に異常が無かったということで、これは、娘のX染色体に異常がなかったことを示している。
 さて、人それぞれ感じ方は違うというが、孫がリンゴを見て「赤い」と感じる赤さ加減と、私が同じリンゴを見て感じる赤さ加減は同じだろうか? まず、赤色視細胞を産み出す遺伝子は、私のも孫のも同じ遺伝子であり、その遺伝子が産み出す光受容タンパク質は、私のも孫のも同じ波長領域の光を吸収し電気信号に変える。従ってここまでは私と孫の間に仕組みの上での違いは無く、あるとすれば、視細胞の数の違いや感度の違いによる電気信号の量的違いであろう。ただ、この電気信号が視神経を通じて脳まで行った時、脳がそれをどう判断し知覚しているかが分からないので、単なる赤さ加減の違いに収まるかどうか分からない。

 上図は、ヒトの視覚経路を示している。外界の情景が、①網膜の桿体細胞の光受容体を刺激し、②感覚ニューロンを介して、③神経節細胞を経て、④視床(視蓋)のニューロンを発火させ、⑤大脳の一次視覚野まで達する。我々は、自分の脳に投影された大脳皮質の視覚地図(⑤一次視覚野)を知覚し外界のものが見えたと感知していることになる。この図の示すところは、ヒトとして共通の仕組みであり経路であるから、脳が作り出す視覚イメージには、個体差はあっても、それは質的な差ではなく量的な差でしか有り得ないと思われる。すなわち、リンゴを例にすれば、孫と私が見て脳で知覚するリンゴの色は、その赤さ加減は違うかも知れないが、赤とそれ以外の色のように異なる色感覚の色として、双方の脳に違った感触で感知されているはずがないと思った次第である。

P.S.
 ヒトの間では、赤色光に対し個人が感じる主観的な感覚質(クオリア)の間に大差はないと思われるし、この色覚遺伝子が同じであるチンパンジーも、我々ヒトと同じ感覚質(クオリア)を赤色光に抱いているかも知れない。
      
 しかしながらこの赤のクオリアは、ヒトと犬や猫との間で異なっているのは明らかである。なぜなら、犬や猫は2色型色覚であり、ヒトとは色覚が質的に異なっているからである。