タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

国際金融のトリレンマ

 円安が昨日から一段と進み、とうとう1ドル155円台に突入した。先日も話したが、「円安は日本トータルで見るとメリットになるので、そう騒ぐ必要もなく、一番円安メリットを享受している政府が円安差益を国民に還元すれば良い」というところが私の考えである。
 
 上図は国際金融のトリレンマを示している。トリレンマとは、3つのことが同時には成立しないことを意味する言葉であり、そこから派生した国際金融のトリレンマとは、①為替相場の安定、②金融政策の独立性、③自由な資本移動、これらの3つを同時に満たすマクロ経済的な枠組みや制度は存在せず、どれか1つを放棄しなければならないことを意味する。
 日本を含めて先進諸国は、②と③を完全に満たすため、①為替相場の安定 を犠牲にする経済枠組みになっている。なぜそうしているかと言えば、民主主義・資本主義国家にとって、この枠組みがトータルで見てメリットがあるからである。一方でロシアでは、政策金利を16%にまで上げて、必死にルーブルの下落を防いでいる。民衆の生活向上ではなく国家の戦争遂行という目的を果たそうとすると、②金融政策の独立性 や ③自由な資本移動 を犠牲にしなければならなくなるのである。中国もロシアと同様に②や③に制限を加えている。
 円安対策のため、日銀に「金利を上げろ」と言っている人もいるが、間違いである。金利は為替を円高に誘導するため上げるものではない。あくまでも、インフレ抑制のために上げるものなのである。また、為替介入を望む声も多く聞かれるが、為替介入の目的について、きちんと理解しておかなければならない。為替介入の目的は、為替レートをしかるべきレベルに誘導することではなく、投機筋による急激な為替変動を是正するためとなる。そういう意味では、今回の円安は、時間を掛けてじわじわ下がってきたので、なかなか介入のタイミングを見い出せなかった。でも、そろそろ介入しても良い頃だと私は考える。何故なら、日米の金利差は縮まってないが開いてもいないからである。金利差に変化がないのに円安へ振れるのは、明らかに投機筋の思惑が働いているからである。現在のFXトレーダは、為替変動で儲けているのではなく、金利差だけで儲けている。つまり彼らも為替の変動は望んでおらず為替の安定を望んでいる。そしてこんな連中が欲しい情報は、何円台で為替介入が入るかであり、そのレベルを超えてまで更に円安を進めようとする気がない。このように考えれば、そろそろ投機筋に このレベル感を示しても良い時期に来ていると思う次第である。

P.S.
 本日午後、日銀総裁の「現時点では今の円安が基調的な物価上昇率に大きな影響を与えているわけではない。利上げのペースは、よりよいバランスの取り方ができるように努力したい」との会見を受け、為替は一挙に1ドル156円台後半へと急進した。いよいよ為替介入が間近に迫った感があるが、財務省の天才トレーダは今頃何を考えているのだろうか?
 2022年9月10月の円安進行局面では、2回、総額9兆円にも上る大規模な円買い・ドル売り介入を断行し、一時的とはいえ為替相場を5〜6円程度、円高方向に押し戻した。下表に示すが、現在為替介入に使える現金(預金)が1537.78億ドル(23.9兆円)ほどあり、2022年程度の大規模介入を2回ほど行える資金を保有している。

 ただ、上述したように、為替介入の目的は投機筋の行き過ぎた行為を窘める程度に限定して行わなければいけないので、潮目が変わるような理想的な介入を行おうとして、天才トレーダは好機を伺うことになる。もし私に全権が任されたのなら、私は以下のような作戦で行う。
 まず、財務大臣にお願いして米国財務長官に申し入れ、日本が保有する米国国債を売って現金ドルを積み増す。そして関係筋に「近々今までに無いような大規模為替介入がありそうだ」とデマを流す。デマだけで為替が円高に動けば、それはそれで良いのだが、市場は直ぐにデマと気付いて元の円安に戻るので、今度は500億ドル(7.8兆円)程度のドル売り円買い介入を仕掛ける。これで為替は確実に円高に動くが、まだ潮目が変わるところまで行かない。そこで、このタイミングで首相にお願いして「円安緊急対策給付金」を8兆円程度全国民にばら撒いてもらう。これは市場にとってサプライズとなる。何故なら、この給付金が景気を力強く回す原動力となり、景気過熱によるインフレ懸念から、日銀が利上げする環境を整えることになるからである。そしてこの日本の利上げの予感が投機筋に「円売りドル買いポジション」の変更を促し、円高基調を定着させることになる。実際、8兆円の給付金はGDPを1.3%ほど押し上げる効果を持つので、世界中の投資マネーが日本の株式市場に流入し、景気が過熱する前に株式市場が過熱してしまうことになる。そして為替相場は、日銀の利上げ前に日本への投資マネーの流入円高に向かうことになるのである。