タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

嗅覚の進化ー2

 今日は昨日できなかった嗅覚の進化について考えてみた。嗅覚受容体は、色覚受容体や味覚受容体と同じGタンパク質共役型受容体(GPCR)である。GPCRは、このように匂いばかりでなく、味、光といった外界の刺激や、ホルモン、神経伝達物質といった内因性の刺激を受容するセンサーとして細胞内に情報を伝達している。嗅覚受容体を作る遺伝子は特定されており、この特定に対し2004年のノーベル医学生理学賞が授与された。f:id:TatsuyaYokohori:20220312232449p:plain
 上図は、哺乳類の嗅覚受容体遺伝子の数を示す。生体内で実際働いている機能遺伝子の比較において、アフリカゾウの2000、ラットの1200、イヌの800、ヒトの400と生物種により大きく異なっている。嗅覚のメカニズムは哺乳類間で基本的に共通しているが、嗅覚受容体遺伝子のレパートリーが生物種によって大きく異なっていることは、それぞれの生物種の生活環境の違いが反映していると推測される。また、嗅覚依存の強い生物種において、遺伝子を増やす選択圧が掛かっていると想像される。実際アフリカゾウでは多数の遺伝子重複が認められており、遺伝子を増やした形跡が残っている。
 なお、この数は嗅覚受容体の種類の数であって、嗅覚受容体を備えた嗅覚細胞の数ではない。因みに嗅覚細胞の数は,ヒトの数百万個に対しイヌが約2億個であり、正に桁違いである。
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 上図は曲鼻猿類と直鼻猿類の進化の系統樹と嗅覚受容体の種類数を表している。曲鼻猿類から直鼻猿類が分岐する際(図中A)、嗅覚依存から視覚依存へ移行したことで、嗅覚受容体種類数が減ったことが分かる。また、コロブス類の分岐の際(図中B)、果実食から葉食への変化により嗅覚受容体種類数が更に減ったと推察される。
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 上図は、水棲と陸棲で嗅覚受容体が異なることを示している。両生類は水棲から変態を経て陸棲となるが、オタマジャクシの頃は、Bcl11B(転写因子)が発現せず、これが発現しないとクラスⅠの嗅覚受容体を備えた嗅覚細胞しか作り出されない。ところが変態後のカエルではBcl11Bが発現しクラスⅡの嗅覚受容体を備えた嗅覚細胞も作り出される。
 嗅覚受容体に水棲・陸棲共通のクラスⅠと陸棲に特有のクラスⅡが存在することは、脊椎動物の陸上への進化の歴史を物語っている。