タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

株価と半導体産業の未来

 先週末史上最高値をつけた日経平均株価は、昨日も今日もわずかながら最高値の記録を更新した。この日本株価好調の背景には、米国株式市場のダウ平均やS&P500が、先週末に史上最高値を更新していて、更なる高値への安心材料になっているとの見方もある。先週の米国株価は、エヌビディアという半導体メーカの好調な決算を受けて急伸したものであるが、日本でも同じように半導体銘柄が株価を押し上げていて、日米揃って半導体景気の様相も感じられる。
 24日には、半導体メーカーTSMC熊本工場の開所式が行われた。今九州では、この世界最大手の台湾メーカの進出で、熊本県内はもちろん、周辺の県外地域まで活気に満ちていると言う。既に第2工場の建設も予定されていて、政府は2つの工場に合わせて1兆2000億円規模の支援を表明している。経済効果は、10年で20兆円に上ると見込まれていて、単純に10で割っても毎年2兆円の経済効果となり、とんでもなく大きい。この効果は、例えるなら、大阪万博を毎年会場とテーマを少しずつ変えながら、10年間やり続けた時 生まれる効果に匹敵する。実際、この工場がある菊陽町では、人口増や地価上昇、賃金上昇が始まっている。熊本県の時給は今 900円程度であるが、TSMC関連のアルバイトの時給は、資材管理で1900円、食堂の調理補助などでも1300円以上と破格な値になっているらしい。もちろん、正社員の採用条件にも びっくりするような好待遇が提示されているのだが、台湾のTSMC幹部に言わせると「熊本工場の賃金の低さにびっくりした」とのこと。これは、日本の低賃金を表すと同時に、安くて良質な労働力にて今後益々発展するTSMCの未来を予感させるものであり、ひいては日本の伸びしろの大きさを表すと言っても良い。
  
 上図は、世界の半導体市場シェアを表している。1980年代には、日本の半導体産業のシェア(占有率)は5割を超えていたが、今は見る影もない。その凋落し低迷していた日本の半導体産業に再び薄日が差し始めた。きっかけとなったのは、米中新冷戦の始まりである。米国には、安全保障の観点から、産業のコメとも言われる半導体を、信頼のおける日本に製造させ安定供給させる必要が生じたのである。
 さて、上図には世界最大手のTSMCの名がない。これは、TSMC半導体の受託製造を行う会社だからである。例えば、TSMCがインテルから委託されて半導体を製造すると、その生産額はこの図の Intel 社に計上される。TSMCには、自社ブランドの半導体チップが無いから、このグラフには載らないのである。
 一方でエヌビディアファブレス(製造工場を持たない)であり、半導体の回路設計を行い製造はTSMCなどの製造受託会社へ委託している。委託先には製造のみ行う会社が選ばれる。なぜならば、設計と製造 双方共に行う会社へ委託した場合、設計技術が盗まれる可能性があるからである。
 エヌビディアは元々、GPU(Graphics Processing Unit、画像処理ユニット)に強い会社であり、ゲーム用の高速グラフィクスの分野では、知る人ぞ知る存在であった。そのエヌビディアが今やAIをけん引する会社としてもてはやされている。なぜだろうか? GPUはコアと言って命令を処理する場所が多い。コア数はCPUが数個~数十個に対しGPUでは15000個にもなる。GPUは沢山のコアを使って並列処理を高速に進めることができる。一方で、ChatGPTのような生成AIの処理では、並列処理をいかに高速に行えるかで性能が決まる。と言うことで、ここに来て、GPUがAI用の並列処理ユニットとして最速性能を発揮するに至り、GPUの分野で一日の長があったエヌビディアがAI用半導体チップの最大手メーカに躍り出たわけである。
 さてそこで問題は、今後どのくらいAIが発展し半導体需要が増えるかである。我々は既にITバブル(1999-2000年)を経験しており、この時は特に米国でIT関連の株が急騰した後 急落し、相場崩壊を引き起こした。この時は「インターネット」というキーワードがあったが、今回の株価高騰は、それが「AI」に変わったような感じにも見える。あの当時、インターネットの向こうに見た夢のような世界と、今AIの向こうに見る夢のような世界は、その実現性においてどれほど違うものだろうか? それが問題である。
 ここで、記憶力が低下したポンコツな頭で更に考えてみれば、あの頃(ITバブルの頃)日本のIT業界は、2000年問題対応で沸いており、インターネット時代のはるか前の時代を歩んでいた。そしてその頃米国では、ベンチャー企業がインターネットビジネスでちやほやされ、実績も無いのに株価だけが上がってしまった。これに比べて今は違う。米国で株高をけん引しているのは「マグニフィセント セブン」であって、これらの企業の業績が良いから株が上がっている。彼らは、AIを駆使してバーチャルでソフトな面を突き進み、新しい夢の世界を切り開こうとしている。となると日本は、リアルでハードな面を受け持ち、このパイオニア達の後をついて行けば良いのではないか。そうすれば、共に繁栄する道を歩むことになるのではなかろうか。