タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

iPS細胞実用化の現状

 昨日のブログでは、今年のノーベル医学・生理学賞であるmRNAの研究について述べた。この基礎研究が、新型コロナワクチンのスピーディな開発&製造に貢献したのだから、ノーベル賞受賞は当然の結果と言える。一方で、山中伸弥教授も2012年に同賞を受賞しているが、受賞理由のiPS細胞が実用化された話はあまりニュースになっていない。今日はiPS細胞の実用化の状況を調べた。
1.再生医療分野への適用状況

 上図は、iPS細胞の再生医療分野への適用状況を示す。今年の4月時点で臨床研究を実施しているものが多数あるが、未だに研究レベルの域に留まっていることが分かる。
2.トップランナーの実状
  iPS細胞適用による加齢性黄斑変性治療

 上図は、iPS細胞の利用でトップを走っていると言われていた「網膜色素上皮細胞移植による加齢黄斑変性治療の開発」の説明図である。iPS細胞から網膜色素上皮細胞シートを製作し、このシートの移植手術により加齢黄斑変性の治療を行う。実際、第1回目の手術は2014年9月に行われた。この手術自身は成功したが、移植手術の安全性や治療効果の確認には、多数の臨床例と長期間の経過観察が必要であることから、未だに「臨床研究レベル」の域に留まっている。
3.実用化がなぜ難しいのか?

 上図は、iPS細胞から血小板を作る際の細胞分化を示している。(血小板減少症に対して、iPS細胞由来血小板の自己輸血が治療法として考えられている)。血小板巨核球細胞から産生されるが、iPS細胞からこの巨核球細胞へ分化する分岐点は少なくとも3つあることが分かる(0.iPS細胞 → 1.造血幹細胞 → 2.共通骨髄前駆細胞 → 3.巨核球細胞)。しかるべき細胞へ分化させるには、しかるべき条件下での細胞培養が必要となるが、この条件を割り出すのはなかなか難しい。網膜色素上皮細胞製作においては、ES細胞で培った技術がそのまま使えたのでトップランナーになれたわけである。
 この図を見ると分かるが、iPS細胞を使って「人工血液」を作ることはほとんど不可能であると言って良い。赤血球と血小板と血漿をしかるべき割合で混ぜ合わせる必要があり、また、血漿成分もこんなにあるのかとなると、『人工血液は諦めて今後も献血に頼るしかない』という判断になる。iPS細胞がノーベル賞を受賞した頃、何も知らない我々庶民は、聞きかじりの情報にて、「自分の細胞から作られたiPS細胞を使って臓器を作れば、拒絶反応を起こさない臓器移植ができる」と言ったこともあったが、臓器は複数種の細胞で構成され、それらが立体的に組み上げられたものだから、そもそも、iPS細胞から臓器を作ることは不可能な話だったわけである。