タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

二度咲きモクレンが今年も開花

 我が家の二度咲きモクレンが今年も二度目の花を咲かせた。なぜ二度も花を咲かせるのだろうか?

 一般に「なぜ?」という問いはその目的を問うことが多いが、こんな珍現象には目的が無いことが多い。従って、事の真相解明には、どのようにしてそうなるのか、つまりそうなる仕組みを考えることが近道となる。そもそも我々は、なぜ二度咲くかを不思議がるが、どのようにして一度しか咲かない仕組みになっているかを考えたことがない。今日は開花の仕組みを探ってみた。

 上図は開花の仕組みを概説している。植物が決まった時期に花を咲かせるには、①昼夜の日周期を認識する概日時計、②日の長さで季節を知る日長認識、③日長認識のための光情報入力系 が必要となる。これらの基礎的な仕組みの上に、④花形成 の仕組みが合わさって、植物は決まった時期の決まった時間に花を咲かせ、次世代への種子を残すことができる。
 花成についてはフロリゲンという植物ホルモンが主役を演じる。日の長さがある程度長くなると(あるいは短くなると)、葉でこのフロリゲンが生成され茎頂へ運ばれる。茎頂では細胞分裂が盛んに行われており、新しく生まれた細胞は成長して茎となったり葉となったりしていくが、このフロリゲンが運ばれると、花芽生成が始まる。

 上図はフロリゲンの構造を示す。フロリゲン活性化複合体は3つのタンパク質の複合体であるが、これがDNAに書かれてある花成遺伝子を読取り(実際読取るのはmRNAで、この複合体は読取る下準備をする)、花成過程を開始することで植物は開花に至ることになる。「駕籠に乗る人担ぐ人そのまた草鞋を作る人」ということわざがあるが、生物の体の中では、そんな役割分担で相互に関係する人間世界を超える複雑さで様々な化学反応が進行する。こんな複雑な仕組みのどこかに稀にエラーがあっても不思議ではない。DNAのどこかに突然変異が生じることは、低い確率ではあるが有り得ることであり、そんな中で1年に2度開花する個体が現れても別に不思議はないのである。
 さて、このフロリゲンは、動物には無い特性を植物が持ち合わせていることを示している。何と植物は、かなりの大きさに成長しても、成長点の細胞は茎になるか葉になるか花になるか決まってないのである。これは動物では有り得ない。心臓に毛が生える(心臓の細胞から細胞分裂にて生まれた新細胞が毛髪細胞になる)なんてことは有り得ないのである。例えばヒトでは、妊娠初期に(受精してしばらくして)細胞分化が進み、ある組織の細胞では、それ以外の組織の細胞に分化しないよう、DNAの中の関係無い遺伝子が読み取り不能になっている。動物ではこのようになっているからこそ、皮膚細胞に一旦分化した細胞が、リセットされて様々な細胞に分化できる多能性を回復できることは有り得ないと考えられていたのであり、そうであるからこそ、山中博士のIPS細胞がノーベル賞の栄誉に輝いたことになる。その一方で植物は、全身がSTAP細胞のようなものである。茎や葉を切り取り挿し木すれば、その切り口から根が生えてくるのだから。これは、茎細胞内のDNAの中で、他の組織への分化に必要な遺伝子に読み取り制限が掛かっていないことを示す。植物の細胞は生まれた時からずっと死ぬまで「万能細胞」なのである。