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田舎の年金暮らしのたわごと

動物の進化(その1)

 今日のテーマは動物の進化である。リンネの分類体系表を見ていると、生物は単純なものから複雑なものへ進化したように見える。ただし、最近のゲノム解析から得られた「分子進化」の観点からは、この分類体系や近縁関係に対し、修正すべき点が多々出て来たと言われている。今日は分子進化の観点に重きを置き、実際動物はどのように進化してきたかを探りたい。
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 上図は動物の進化系統樹である。分類体系に沿った動物種名を黒字で、分岐後の形質特性を表す総称名を赤字で、形質特性を緑字で、代表的な種名例を青字で示す。
1.多細胞化
 現在、私たち多細胞動物に近い「親戚」だと考えられている単細胞生物立襟鞭毛虫(たてえりべんもうちゅう)だと考えられている。太古の昔、およそ10億年前から9億年前の間に、この立襟鞭毛虫との共通の祖先から多細胞動物は分岐した。この時、多細胞化のため、細胞間で協調して生命活動を行うことが必要になったが、これに必要な遺伝子はほとんど用意されていたと思われる。実際、立襟鞭毛虫の遺伝子数は20,000であり、ヒトが持つ遺伝子の2万数千と大差ない。多細胞における細胞間の情報連絡の仕組みは、単細胞における自身と外界との情報のやり取りの仕組みの応用で可能になったと考える。
2.前後軸の確立と神経細胞の獲得
 多細胞化後、生命活動をする上で、各器官毎で生命活動の役割分担をするため、所定の位置に所定の器官を形成するための遺伝子が生まれた。2/25のブログで紹介したHox遺伝子である。これにより前後軸を確定し、体の決められた位置に決められた器官が形成されるように進化した。
 また神経細胞の獲得により、隣接細胞間ばかりでなく、遠隔細胞との情報連絡もできるようになった。海綿動物はこの進化から外れたため、神経細胞を持たない。ただし、シナプスの遺伝子が消化室内での細胞間情報交換を助けている。そしてその体で毎日数万リットルもの水をろ過して摂食している。このため、元々カイメンは神経細胞を持っていたが退化して失った可能性もある。
3.背腹軸を確立し左右相称動物への進化
 多細胞動物はその後Hox遺伝子ファミリーを拡充し、前後軸に加えて背腹軸も確立し、3次元空間で動き回りながら、生命活動を営める左右相称動物へと進化した。ヒトのHox遺伝子は進化の初期段階(約5億年前)に生じた2回の全ゲノム重複により、単一であったHoxクラスターは4つのHoxクラスターへ分岐した。
 この進化から外れた刺胞動物(クラゲ、イソギンチャク)は、放射相称動物と考えられている。しかしながら初期の幼生は左右相称なので、成体が海底での固着生活に適応するにつれて退化して放射相称になったとの説もある。
脳神経系の確立> 
 左右相称動物への進化の際、脳神経系の基本的な仕組みが確立した。2/28のブログの中でnou-darake遺伝子を紹介したが、これはHox遺伝子の一種で、脳を頭部のみに形成することを制御する遺伝子である。動物がここまで進化することにより、体のあちこちにある感覚器からの感覚情報を脳に集めて処理し、処理結果を運動神経へ伝達する仕組みの基本が確立した。
4.三胚葉動物へ進化
 刺胞動物までは二胚葉動物で外胚葉と内胚葉しか無かったが、三胚葉動物へ進化することにより、外胚葉と内胚葉に加えて中胚葉を備えて成体へと成長する動物となった。
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 上図は、ウニとカエル(共に三胚葉動物)の卵内の構造を示す。また下図は各胚葉の分化先を示す。
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 三胚葉動物は、受精卵が卵割して胚子への道を進む中で、卵のどの位置が将来どの器官へ分化するかをしっかり決めて成長する。一方で、この三胚葉動物への進化から外れた扁形動物プラナリア)は、成体になったあと、前後軸のどこで2つに分割しても、前側からは尾が生え、後ろ側からは頭が成長し、2個体の成体に再生できる。
<骨格系、循環器系の進化>
 三胚葉動物への進化の際、新たに追加となった中胚葉から分化する骨格系(骨、軟骨、結合組織)や循環器系(血液、血管、心臓、リンパ管)の臓器や器官・組織を備える体へと進化したことで、個体サイズの大型化が可能になった。

 今日は進化の前半の説明で終わった。明日後半を説明したい。

P.S.
 進化の話から逸れるが、我々人類は三胚葉動物であり、精子卵子が受精してまもない胎児初期の時点で、将来皮膚になる細胞、心臓になる細胞、胃や腸になる細胞が決まっている。これは、ヒトが有する60兆もの細胞一つ一つに、体全体を形成するに必要な遺伝子が含まれているのだが、皮膚の細胞では皮膚の形成に必要なほんの僅かな遺伝子しか働いておらず、残りの大半の遺伝子は眠った状態にあることを示している。
 すなわち、授精した時点でどんな細胞にも成り得る万能細胞だったものが、一旦各細胞への分化が始まったら、もう後戻りできない状態になるわけである。このひと昔前の常識を覆したのが、iPS細胞となる。