タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

蛇はなぜ怖いのか?

 今朝、ウォーキング中にヘビを見た。久しぶりだ。4m幅道路の真ん中でとぐろを巻いていた。体長70cm ほどの小さいヘビだったが、半径2m以内に近づかないよう遠巻きで通り過ぎた。
 どうもヘビは好きになれない。なぜ怖いと思うのだろうか? 安部公房は「砂漠の思想」というエッセイ集の中で「常識や日常から外れているものを人間は嫌う傾向にあり、その典型がヘビではないか」と書いている。高校の現国の教科書でこれを読んだ時は、『あっ、そうなのか』と思ったりしたが、今では「非科学的な評論家のたわごと」だと思うようになった。
 人が蛇を怖がるのは本能であり、これが真実である。安部公房はエッセイの中で「世に流布している説明のうちで、一見いかにも合理的な外形をそなえているのは、人類の太古の記憶だという例の学説(人類の祖先がかつて、樹上生活をしていた時代、蛇は人類にとっての、もっとも恐るべき敵であった)」と紹介したあと「人類の祖先が、はたして樹上生活をしていたかどうか疑わしいし、記憶が遺伝するという説はまだ聞いたことがない」と、この説を完全否定している。
 安部公房の推論のどこに間違いがあったのか? まず人類(の祖先)は、チンパンジーからヒトへと進化する前の段階において、樹上生活をしていたことは確かである。また、旭山動物園園長は、「サルの仲間は本能的にヘビが嫌いです。チンパンジーやテナガザルなど旭山動物園のサルの仲間も園内にいるアオダイショウが放飼場の外を這っているだけでパニックを起こします」と書いている。これは、人類がヒトへと進化する前の類人猿であった頃から、既に蛇を怖がっていたことを意味する。
 間違いの二つ目は、記憶と本能を区別無しに扱っている点である。確かに記憶は遺伝しないが、本能は親から子へと遺伝する。本能が遺伝するからこそ、蛇を怖がらずにいた類人猿(ヒトの祖先)の個体は淘汰されて死に絶え、怖がった個体が生き延びて主流派となり、今日においても蛇を怖がりながら種の命を脈々と繋いでいるのである。