タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

ミトコンドリアDNA

 山梨県道志村の行方不明少女の件で、最近「ミトコンドリアDNA」が世間に広く認知されるようになった。ミトコンドリアは細胞内小器官であり、呼吸を行い,酸素を用いて有機物を無機物まで分解し,有機物のもつ化学エネルギーを ATP の化学エネルギーに変換している。なぜこのミトコンドリアがDNAを持つのか? この謎は生物進化の歴史を探れば解ける。

 元々、ミトコンドリアは独立した別の生物(バクテリア)であり独自のDNAを持っていた。上図で示すように、植物においては、ミトコンドリアばかりでなく葉緑体も別の生物だったわけだが、進化の過程で細胞内共生を始めた。故に、核内DNAの他にミトコンドリアDNAが存在する(植物では葉緑体DNAも存在する)。
 このミトコンドリアDNAは母系遺伝し母親のDNAのみが子に引き継がれる。この理由は、精子卵子が受精する際、精子の核内DNAのみが卵子に入るが、精子ミトコンドリアDNAは卵子への侵入を阻止されるからである。
 核内DNAに比べ、ミトコンドリアDNAのゲノムサイズは非常に小さく、ヒトにおいては20万分の1しかない。ただしミトコンドリアは、1細胞当たり100~2000個あり、今回の頭骨鑑定においても核内DNAは検出されなかったが、ミトコンドリアDNAの方は検出された。
 このミトコンドリアDNAを用いて、カリフォルニア大学バークレー校のレベッカ・キャンとアラン・ウィルソンのグループは、できるだけ多くの民族を含む147人のミトコンドリアDNAの塩基配列を解析し系統樹を作成した。系統樹の起点となる人類母系共通祖先はミトコンドリア・イブと呼ばれる

 上図は母系共通祖先がどのように全世界へ拡散したかを示している。母系遺伝とは反対に父系遺伝するものがある。ヒトには性染色体としてX染色体とY染色体があるが、女性は2つのX染色体を持ち、男性はX染色体とY染色体を一つずつ持つ。男性が持つY染色体は父親からのものであり、すなわちY染色体は父系遺伝する。Y染色体DNA解析で求められた人類共通男系祖先はY染色体アダムと呼ばれる。

 上図はY染色体DNA解析から導き出された、ヒトの拡散の系列とルートを示す。ミトコンドリアDNA解析でもY染色体DNA解析でも、人類の起源はアフリカと示された。私が中学生だった頃は、人類の起源として、「アフリカ単一起源説」と「多地域並行進化説」と2つあったが、DNA解析により「アフリカ単一起源説」が正しいと確定し、現人類はアフリカに起源を持つ単一種という結論に至った。