タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

遺伝子の働きから進化を考える(その2)

 今日は昨日の続きで、遺伝子の働きから進化を再考する。
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 上図はキリンとヒトとの首の比較である。キリンの首は長いが、頸椎の数はヒトと同じ7個である。キリンの首が長いのは、頸椎が多いからではなく、一つ一つの頸椎が長いからである。そして、キリンの頸椎の長さが長くなるのは、発生期に成長が長く続くからである。
 哺乳類の骨成長は、軟骨細胞と呼ばれる軟骨産生細胞の増殖の結果として起こる。骨成長は軟骨細胞のアポトーシスと骨基質の石灰化に至る遺伝子シグナルによって停止する。キリンではこのシグナル過程が頸椎で遅れるために、頸椎が長くなる。これを進化の観点から説明すれば、キリンの骨成長の停止を指示する遺伝子に変異が生じ、頸椎において成長停止が遅れるようになった結果、頸椎成長期間が長くなり、長い首を持つキリンが現れた。この形質変化は競争優位に働いたため、キリンの首は長くなった。

 昔、中学校理科の「進化」の授業では、ラマルクの用不用説は「獲得形質は遺伝しない」ということで正しくなく、ダーウインの自然選択説が正しいと教わった。ここにおいて、親から子へ遺伝するのが「突然変異」にて獲得した形質だと教わったのだが、「ほとんどの突然変異は有害」とも教えられて、『そんな稀にしか起こらない有益な突然変異を引き継いだ子孫に偶然にも連続して有益な突然変異が起きないと進化が進まないのか?』と腑に落ちない思いをした記憶がある。あれから50年ほど過ぎ、特に遺伝子関連分野は著しく進歩した。そして、中学生時代に抱いた疑問を振り返り、自分なりに答えを見つけられるようになった。以下にまとめてみる。
Q1 突然変異はほとんど有害なのに、そんなもので進化は進むのか?
A1突然変異の例としてショウジョウバエ放射線を当てて起こした突然変異が授業で説明されたが、これは昨日説明した「Hox遺伝子」に対する突然変異を意味し、この変異は体の基本構造を変えることになるので、結果、生き残れない奇形個体を産み出すだけで終わる。確かに、そんな突然変異では進化は進まない。それでは突然変異は進化を進める原動力に成り得ないのかと言えば、そうではない。実を言えば、この疑問が生じる「突然変異はほとんど有害」という前提条件自身が間違っているのである。突然変異のほとんどは有益でも有害でもない。突然変異は今も我々の体の中に生じている。遺伝情報のコピーミスは10万回に1回の割合で起きていると言われており、私がおぎゃーと生まれた時も、60,70程度の変異をもって生まれてきている。しかしながら、ほとんどの突然変異は有益でも有害でもないし、例え父方から有害な突然変異を授かっても、母方の正常な遺伝子がカバーしてくれるから、有害な形質が直ぐには表に現れないのである。2/7のブログで類人猿は進化の過程でビタミンC合成酵素を喪失したと説明した。この突然変異が起きた時、この変異は有害とはならなかった。果実から十分ビタミンCが補給できたからである。ただ、この突然変異が次の「尿酸酸化酵素の喪失」につながり、結果尿酸値レベルが上昇し、人類は長寿命へと進化することになった。つまり、有益でも有害でもない変異が溜まっていく中で環境が変わり、溜まった変異が新しい環境への適応で有益と働き進化の原動力になるのである。
Q2進化が少しずつ進むとは小さい突然変異が何回も起きるということか?
A2ほとんどの突然変異は、蛋白質の何百もあるアミノ酸配列の中の一つのアミノ酸が別のアミノ酸に変わる変化である。キリンの長い首を例にすれば、キリンの骨成長の停止を指示する遺伝子に変異が生じ、この遺伝子が産み出す蛋白質の中のアミノ酸の一つが別のアミノ酸に変わっても、その蛋白質の形状や機能性能は大きく変わらない。しかしながら、長い時間を掛けそういった突然変異が溜まる中で、自然選択の力が、骨成長の停止を遅らせる変異を選択するように働けば、キリンの首が長くなる方向へ進化が進むことになる。