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田舎の年金暮らしのたわごと

宇宙背景重力波の発見

 動く物体から時空間のゆがみが光速で波のように伝わっていく「重力波」が、宇宙のあらゆる方向から来ている証拠を観測したと、米国などのチームから29日までに発表された。ただ、こんなニュース報道を聞いても、一般の人には、それがどういう意味を持つか分からないし、それによって各自が抱いている宇宙のイメージが変わったりしない。今日はこの宇宙背景重力波の発見がどういう意味を持つかについて私なりに解説してみたい。
1.宇宙では銀河同士が衝突し合体している

 上図は銀河同士が衝突するイメージ図である。現在、宇宙の至るところで銀河同士が衝突しているようである。実際、我々が住む天の川銀河も、250万光年離れて隣接するアンドロメダ銀河と40億年後には衝突すると考えられている。
2.銀河中心にあるブラックホールの運動が重力波を引き起こす
 銀河の中心にはブラックホールが存在すると考えられている。ブラックホールは空間に歪みを引き起こすが、銀河同士が衝突する際、互いのブラックホールが距離を縮めながら回転運動(周期運動)するため、空間の歪みに周期性が生じ重力波となって周囲へ伝搬する。下図は空間を歪ませながら回転運動する2つのブラックホールのイメージ

3.パルサーの長期間観測データの解析から重力波の証拠を検出

 上図は、今回の発見のベースとなったパルサー観測のイメージ図である。宇宙には、決まった周期で電磁波を発するパルサーという天体があり、今回の発見は、68個のミリ秒パルサーを対象として15年分の観測データを解析する中で得られた。なんと、数年から数十年周期という非常にゆっくりとした周期で、パルサーから発せられるパルスのタイミングが早くなったり遅くなったりしたとのこと。そしてこれが、重力波により空間がゆっくりと伸縮していることの証拠となった。
 今回の解析結果から、重力波震源が複数あり(複数の周波数)、重力波が様々な周波数であらゆる方向から来ていることが確認できた。
4.宇宙像の更新
 まず、数年から数十年周期で運動する天体とはどういうイメージになるか考えてみる。ケプラーの第3法則は「惑星の公転周期の2乗は、軌道長半径の3乗に比例する」と表される。この法則は、公転周期が決まれば軌道半径が(質量に依らず)決まってしまうと言っている。つまり、質量がブラックホールのように巨大なものでも、公転周期が地球と同じ1年であれば、軌道半径も地球の軌道半径と同じ1億5000万km(=1天文単位)となる。周期1年の重力波は公転周期1年で公転するブラックホールを意味するので、これは2つのブラックホールが軌道半径2天文単位の距離で回転運動しているイメージとなる(公転軌道は2つのブラックホールの重心を中心とする軌道となるため、両者の質量が同じ場合は、2天文単位離れて公転運動する2天体の軌道半径は1天文単位となる)。因みに、周期30年は軌道半径が9.6天文単位となり、太陽から土星までぐらいの距離になる。
 今回の発表では、背景(Background)と言って良いくらいに、あらゆる方向から様々な周波数の重力波が一様に検出されたみたいだから、宇宙には、銀河系同士の衝突が無数に発生していて、その中心にあるブラックホール同士が互いに引き合い、距離を縮めながら(=公転周期を縮めながら、=周波数を上げながら)回転して重力波を発しているイメージが浮かび上がる。銀河の直径は天の川銀河で10万光年であるが、今回の発表は、そのように大きなサイズの銀河同士が衝突し始めて、中心間距離が太陽と土星ぐらいの距離まで縮まって来て観測可能な重力波を発し始め、その重力波を検出できた結果であることから、つまり衝突開始から長い時間を掛けて最終段階まで来ているペア銀河が、宇宙にはうじゃうじゃといっぱいあることを暗示している。
 この重力波はあまりにも低周波であり、人の耳には聞こえない(もちろん、あらゆる生物にも聞こえないのだが)。今回の発表資料のタイトルは「The gravitational wave background of the universe has been heard for the 1st time」である。宇宙のかすかな唸り声を初めて聞くことができ、さぞや研究者冥利に尽きたことであろう。