タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

老化の研究

 今日の朝刊に「タウリンが老化防止のカギ?」という記事が載っていた。米独などの国際研究グループが、魚介などさまざまな食品に含まれ、体内で合成もされる栄養素のタウリンに、動物の健康寿命を延ばす効果があると、米科学誌サイエンスに8日発表したとのこと。
 寿命を延ばすことは人類の長年の夢であり、最近は特に健康寿命を延ばす研究が盛んに行われている。ここで中心となるのが老化の研究である。老化はなぜ起こるのであろうか? 現在老化が起きる原因としては、「エラー説」と 「プログラム説」と2つある。老化は、エラー説では偶発的な損傷やエラーの積み重ねにより起きるものとし、プログラム説では、遺伝的にプログラムされた現象と見る。実際老化は、この2つが複雑に絡み合って起きると考えられている。
 それでは老化の目的とは何であろうか? 進化論の立場で言えば、なぜ老化するように進化したのであろうか? 答えは、老化して最終的に死を迎えることで世代交代が進み、雌雄の遺伝子の混ぜ合わせで誕生した新しい世代に、新しい環境への適応を託すためである。そして、実際その世代交代戦略が成功したものだけが絶滅せずに現在も生き残る結果となっている。ただ、老化せず「ピンピンコロリ」で死んでも上記の目的は達成されるはずなのに、ヒトは死の前には必ず老化という現象を経験する。
 老化の目的として一つ分かっていることがある。発がん抑制である。我々の体を構成する細胞は日々分裂を繰り返し新しい細胞へと新陳代謝を繰り返すが、細胞分裂の際のDNA複製ミスが低い確率ではあるが日々生じている。またDNAは、放射線やウイルスによってもダメージを受ける。つまり、我々の体には毎日毎日がん細胞予備軍が生まれていることになる。若いうちは免疫系がこの生まれたての予備軍を除去してくれて問題にはならないが、免疫力が落ちて来る年代になると、除去できずにがん細胞へと成長し増殖を始める。こんな時に発がん抑制の切り札になるのが「細胞老化」なのである。細胞老化は、がん細胞が生まれて増殖するのを抑制し、我々が死に至るスピードをスローダウンしてくれる。これを老化原因の2つの説を使ってまとめれば、「エラー説」の代表格であるDNAの経年劣化が、「プログラム説」の代表格である細胞老化により、致命的な問題(発がん)にならないように制御されていることになる。

 上図は哺乳類における体重と寿命の関係を示している。ヒトが他種の動物と比べて、体重の割には寿命が長いことが分かる。これは、ヒトが寿命の延びる方向へ既に進化していることを意味するが、長寿を実現している要因の一つとして、ヒトが発がん抑制機構を備えているからだと考えられている。

 上図は齧歯類の一種であるハダカデバネズミが、一般のネズミに対し非常に長寿であることを示している。なんと、体重から推定される寿命の5倍も長生きする。ハダカデバネズミは強力ながん抑制機構を持っており、また、実験室で飼育できることから、「老化・がん化抑制法」の開発のための新たなモデル動物として研究されるようになった。この長寿ネズミをしっかりと研究し、長寿でかつ、ピンピンコロリで命を全うできる世界を早く実現して欲しいものである。