タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

寿命はどのように決まるか?

 今日のテーマは「寿命」についてである。 

 上図は厚生労働省が公表している資料からの抜粋で、日本人男性の生存率曲線である。これを見ると、昭和22年においては、男性は60才を前にして半数の人が亡くなっていたことが分かる。漫画「サザエさん」が発表されたのが昭和21年で、サザエさんのお父さんである波平さんは54才の設定であり、1年後に定年を迎えるおじいちゃんとして描かれた。定年後平均寿命までの4,5年が老後の隠居生活として予定されていた時代であった。
 令和2年の曲線を見ると、現在男性は、80才まで長生きできる人が60%を超えることが分かる。この70年余りで平均寿命が格段に延びた。理由は、医療の進歩と生活習慣や衛生環境の改善が大きいと見なされている。ただ曲線を見ると平均寿命は延びたが最大寿命は限界があり、ほとんど延びていないことが分かる。5/18のブログでは、『性と有性生殖の出現に並行して、真核生物には、遺伝子の運び屋としての生物個体に寿命が設定された』と書いたが、ここで言った寿命とは最大寿命の方になる。それでは、最大寿命はどのように設定されるのであろうか?
 5/21のブログの中では、「寿命遺伝子」の話をした。clk-1という遺伝子の働きを殺すと、最大寿命が延びる(もちろん平均寿命も延びる)という実験結果が得られた。これは寿命(最大寿命)をコントロールする遺伝子が存在することを暗示している。

 上図はBLUE BACKS「寿命遺伝子」に書いてあった図を書き写したものである。この図には、細胞内で寿命遺伝子(遺伝子が産み出すタンパク質)がどのように連携して働いているかが示されている。ミトコンドリア内で働くCLK-1が赤字で示されているが、それ以外にも多くの寿命遺伝子が連携して働き、これらの働きのトータルで最大寿命が設定されることを示している。
restという遺伝子が産み出すタンパク質RESTが図の下方に青字で書いてある。このRESTは、若い人の脳のニューロンでは通常ほとんど発現していないが、高齢者のニューロンでは高レベルで発現する。ところが、軽度認知障害(しばしば認知症に先行する症状)がある人とアルツハイマー病患者のニューロンの核ではRESTの発現レベルが著しく低下していることが明らかになった。これは、「ある程度の年齢になった時、活動を始める(発現する)遺伝子があり、この遺伝子の発現レベルが低いと軽度認知障害アルツハイマーを発症する」ことを暗示している。実際、健康な高齢者の脳のニューロンでは、核のRESTが、複数のアポトーシス促進遺伝子とアルツハイマー病の発症に関わる酵素をコードする遺伝子を標的としており、それらを抑制していることが確認された。これはつまり、人間の体の中には、年老いた脳のニューロンをさっさとアポトーシス(細胞自殺)に追い込む遺伝子もあれば、それを抑制する遺伝子(rest)もあり、両者のせめぎ合いの中でアルツハイマーの発症時期が決まることを示している。
 2/7のブログでは、最大寿命と尿酸レベルの関係を示した。

「平均寿命は延びたが最大寿命は延びてない」と上述したが、これは遺伝子で決まる最大寿命は遺伝子が変化しない限り変わらないことを意味する。逆に言えば、我々人類は数百万年の進化の中で遺伝子を変化させ、ゴリラやチンパンジーより長生きできる最大寿命を手に入れたことになる。