タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

自然現象はなぜ正規分布になるのか?

 私はかねてより自然現象がなぜ正規分布になることが多いか不思議に思っていた。ネットで調べても「偶然のバラツキに由来するたいていのデータは正規分布になる」と統計学的なことが書いてあるだけ。物理的な原理と数学的な定理の間の関係を明確に示した記事に今まで出会ったことがなかった。ところが、今読んでいるエントロピーの解説書の中で、ついにその物理原理に巡り合えた。
 電磁場を記述する「マクスウェルの方程式」で有名なマクスウェルは、1860年に、気体分子運動論の中での気体分子の速度分布に関して論文を出した。以下に示す図は、この論文中に書かれてあるマクスウェルの速度分布であり、その式の形は正に正規分布となっている。

 ここにおいて初めて、物理現象である気体分子の速度分布が、統計学における正規分布と同じ形となることが分かった。そこで次なる疑問は、『気体分子の速度分布がいかなる物理的原理から導き出せるか?』である。この疑問に対しても、エントロピーの解説書は答えてくれた。実際その答えを出したのは、統計力学創始者であるボルツマンである。ボルツマンは、気体分子の速度分布が分子群の取り得る状態の確率で決まることを喝破した。すなわち彼は、「気体分子は自由に動き回る中で衝突を繰り返し、速い分子と遅い分子が一定の比率で存在する速度分布で平衡状態になるが、その取り得る総状態数は順列組み合わせで決まる数であり、速度分布の度数はその組み合わせ状態となる確率で決まる」と言ったわけである。
 結論的に言えば、「自然現象は物理の根本に確率的に決まる部分があるので正規分布になる」となる。それでは確率的に決まる現象とはどんなものであろうか?
 ボルツマンの関係式は以下のように書ける。
   S=kln(W)
(S:エントロピー、k:ボルツマン定数、ln():自然対数、W:取り得る状態数)
物理現象には「可逆的」なものと「不可逆的」なものがある。不可逆的な現象は一方通行で元には戻れない。熱力学の第2法則では、熱は高温から低温へ移動し逆に低温から高温に自然に流れることはないとしている。この法則は、熱の流れは不可逆現象だと言っていることになる。この第2法則は、「エントロピーは常に増大する」とも言える。エントロピーとは、「でたらめさの尺度」とも解釈される。これらをまとめると次のように結論付けることができる。
 世の中の物理現象において、その根本には、粒子が(あるいは量子が)自由勝手に動き回る現象が存在し、この自由さの尺度はエントロピーとも言われ、常に増大する状態量となる。この自由に動き回る粒子が確率的でかつ不可逆的な過程を経て平衡状態に達した時、その状態は確率論で統計力学的に決まる状態となり、その平衡状態での粒子の物理量(例えば速度)分布は正規分布となる。

 今日は、大学の教養課程でさっぱり分からなかったエントロピーが分かったような気がして、とても良い気分になった。