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量子コンピュータの適用範囲

 理化学研究所などが開発した国産初の量子コンピューターが27日、稼働した。この分野は米国と中国が先行しているが、ここへ来て日本もようやく巻き返しへの第一歩を踏み出す形となった。今日は量子コンピュータの適用分野について調べた。
 従来のコンピュータは、1ビットに「0か1」という2通りの値を割り振ることで計算を行っている。一方量子コンピュータでは、1量子ビットが「0でありかつ1でもある」という量子物理に特有の現象を演ずることで計算を行う。この「0でありかつ1でもある」状態を量子もつれと呼び、昨年のノーベル物理学の受賞テーマとなった現象となる。

 上図は、従来ビットと量子ビットを比較した図である。量子ビットは、量子もつれ状態が解消した時「0か1」の値を持つが、量子もつれ状態中は、図で示す球面上のいずれかの状態にある。この状態を敢えて数値で表そうとすれば、変数θとφを用いた複素空間上の複素数で表すことができる。量子ビットは2つの量子の量子もつれを表すが、複数の量子ビットを組み合わせれば複数量子の量子もつれを作ることができる。
 以下に、n元の連立方程式を例に従来コンピュータと量子コンピュータの解法を比較する。従来コンピュータでは、逐次計算にてn元から1元への方程式まで落として解を求め、それをまた逐次処理にて代入計算して全体の解を求める解法となる。一方で量子コンピュータでは、連立方程式が意味するn量子の量子もつれを作っておいて、そこに初期条件や境界条件を与えて一挙に一括計算する形となる。量子コンピュータは、変数が増えた場合指数関数的に計算時間が増えてしまう問題の解法に威力を発揮する。

 上図は、巡回セールスマン問題の説明図である。この問題を解く場合、全ての巡回パターンを洗い出し、パターン毎に総移動距離を計算することになるが、巡回パターン数は顧客数をnとすればn!通りあり、nが大きい値になると計算量爆発問題になってしまう。

 現在インターネットで標準的に使われているRSA暗号は、大きな素数を2つ掛け合わせた数を鍵として使っている。掛け合わせた数を素因数分解して元の素数を見つけるのに非常に大きな計算量が必要なことで安全性を担保している。上図は、現行RSA暗号の鍵ビット長(2048ビット)において、現行コンピュータで鍵解読に1億年以上の計算時間が必要であることを示している。一方で量子コンピュータでは、鍵ビット長の長さに関わらず一定の時間で計算が終了する。従って、RSA暗号方式の安全が担保されるのは、「多量子ビット」のコンピュータができるまでとなる。昨日稼働した理研量子コンピュータはたったの64量子ビットであり、まだまだ多量子ビットとは言えない。RSA暗号方式は、まだしばらくの間は安全が担保されることになる。
 さて、量子コンピュータの適用分野は色々考えられている。例えば、創薬への適用についても考えられていが、従来、高々数十個の原子モデルで化学反応をシミュレーションするだけでも、従来コンピュータでは億年単位の計算時間が掛かり、事実上粗い簡易計算しかできていなかった。もし、数百原子レベルで、分子や原子の結合や分離のシミュレーションが可能になれば、例えば、変異したコロナウイルスが変異前に比べて何倍受容体にくっつき易い(感染力が増す)かも、計算で求めることが可能になる。創薬の開発も各段に進むことになるであろう。