タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

「量子もつれ」が分かったような気がした

 「量子もつれ」は今年のノーベル物理学賞の受賞テーマでもあり、最近にわかに耳にするようになった。先日、東京大学のサイトに「スピンと軌道の量子もつれの巨視的効果の発見と、その制御に成功」との記事が出たので読んでいたら、「量子もつれ」とはどういうものか分かったような気がしたのでブログに書き留めておく。
1.氷の結晶内の化学結合古典力学的理解

 上図は氷の結晶構造を示す。氷は正四面体構造で、酸素原子を四面体の中心に置き、隣り合った4つの水分子の中の酸素原子を四面体の頂点に置く構造となっている。酸素原子同士の結合は、水素原子を介して「共有結合」と「水素結合」にて繋がっている。ここで共有結合の古典的イメージを下図に示すが、電子を粒(点)として表現し、酸素の電子と水素の電子が共有されているイメージとなっている。昔、このイメージを見て何とも思わなかったが、今見ると、電子に酸素用とか水素用とか名前が付いていないし、もちろん左水素用とか右水素用とか書いてないので、この表記法は結合状態のイメージ化という観点で見ると不適切であると思える。

 2.電子の量子力学的イメージ(電子雲)
 量子力学では、原子の回りに位置する電子をふわっとした電子雲のイメージで描く。上述の記事を読んでいて、ふわっとする電子雲のイメージは、軌道成分とスピン成分の2種類で描くべきだと分かった。下図は、この研究テーマの材料となった酸化物Pr2Zr2O7において、スピンと軌道が量子もつれしている模式図である。さて、ここで「量子もつれ」が出て来る。ただ、スピンと軌道が量子もつれ状態となっていると言われても、そもそも「量子もつれ」自身がどういう状態か分かってないのでピンと来ない。

3.スピンアイスと量子もつれ
 氷の結晶では、中心にある酸素原子に対し4つの水素原子が結合しているが、この内2つは近く(共有結合)にいて残り2つは遠く(水素結合)に配置される(アイスルール)。スピンアイスは、氷の結晶モデルに対し、正四面体の頂点を電子に置き換え、水素原子の近いか遠いかの2状態を電子スピンが内向きか外向きかの2状態に置き換えることでイメージできる。スピンアイスにおいては、4つの頂点の内2つが内向きスピンであれば、他の2つは必ず外向きになる。
 以下の図は、正四面体構造の酸化物Pr2Zr2O7が2種類の格子歪みモードで変形し(下図左)、この変形の揺らぎが、スピンと軌道の量子的な絡みあい(量子もつれ)を介して、異なるスピンアイス状態間の量子力学的行き来(=量子揺らぎ、下図右)を可能にしていることを示している。これは、格子歪みが量子スピンアイスを安定化させていることを意味する。

4.自問自答
 Q1 量子もつれとは?
 A1 アイスルールのように、4つの電子の内2つが内向きスピンであれば、他方は必ず外向きになるような、複数の量子間に関係が生じた状態
 Q2 量子揺らぎとは?
 A2 上図右のように、取り得る状態が複数ある場合、一つの状態に確定とならず、状態間を行ったり来たりすること
 Q3 量子の世界はどのようになっているか?
 A3 例えば、電子を粒子ではなく量子と捉え、軌道成分とスピン成分に分解され、空間上に広がる波だと捉えることで、量子の世界はイメージできる。複数の量子は(複数の波は)互いに関係性を持つが、これを量子もつれと呼ぶ。量子揺らぎは、量子である波の振動モード(パターン)が複数有り、量子の状態がこれらの間を行ったり来たりする様子をイメージすれば良い。この量子揺らぎは観測により停止する。観測とは、観測側にエネルギーを与えることを意味するが、空間上に波として広がる量子が量子揺らぎを止め粒子となることで、はじめてこのエネルギーの受け渡しができる。量子揺らぎが停止した時、この量子と量子もつれの関係にある別の量子の量子揺らぎ量子もつれの関係性を維持して停止する。

P.S.
 今日は深夜0時からサッカーワールドカップを観戦したが、残念な結果に終わった。しかしながら気を取り直して 記事「スピンと軌道の量子もつれの巨視的効果の発見と、その制御に成功」を読み返したら、量子力学の世界がイメージできるようになった。学生時代の疑問が40年以上経って解消した。何だか良い気分になった。