タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

カーボンニュートラルに対する各国の思惑

 先日のCOP26は、成果文書の最終案に残った「石炭火力の廃止」方針に中国とインドが抵抗し、採択直前に文言が変更される結果に終わった。環境活動家のグレタさんも「COP26は失敗だった」との声明を発している。今日はカーボンニュートラルに対する各国の事情を調べてみた。まずは最初に、カーボンニュートラルという言葉の意味について考えてみる。
f:id:TatsuyaYokohori:20211117113138p:plain
 上図は、地球という閉鎖系の中で炭素がどのように循環しているかを示している。この図中の数値で、赤字は静的な蓄積量を、黒字は動的な移動量を示している。現在、温室効果ガスとして問題になっている二酸化炭素やメタン等の炭素化合物の気体が、大気中に炭素ベースで750(単位10億トン)存在することが示されている。この値が大きいので温暖化になってきたわけだが、今世界が問題にしているのはこの蓄積量ではなく、この値が毎年30億トン増えていることを問題にしている。つまりカーボンニュートラルとは、大気中の炭素量をこれ以上増やさないようにして「動的平衡状態」を保てるようにする活動だと言える。図を見て分かるようにこの活動は、これ以上「化石燃料の燃焼」を増やさないとか、これ以上「森林の減少」を防ぐことで達成できるし、植物による光合成量を増やしたり、二酸化炭素を海や土中へ封じ込めたりすることでも達成できる。
 次に各国の事情を調べた。以下の図は、主要国のCO2排出量である。
   f:id:TatsuyaYokohori:20211117122748p:plain
 日本は世界全体の3.2%を占めるが、中国は日本の9倍ほどのCO2を排出していることが分かる。メーカでQC教育を学んだ私にとって、問題解決には、要因別のパレート図を書いて、影響度が大きいものから潰していくのだが常道だが、その手法を取るなら、対策すべきはまずは中国ということになる。f:id:TatsuyaYokohori:20211117124221p:plain
 上図はCO2排出の主要な発生源である発電量の推移を示す。CO2排出量1位の中国と3位のインドが、この30年間で急拡大していることが分かる。f:id:TatsuyaYokohori:20211117125542p:plain
 上図は主要国の発電構成を示す。COP26では「石炭火力の廃止」が提案され中国とインドの抵抗で頓挫したが、反対した2国が石炭火力発電に大きく依存していることが分かる。上に示した3つの図により、カーボンニュートラル活動が成功するか否かは、中国とインドの動向で決まることが分かる。トランプ元大統領は2017年に、中国の動向を見ながらパリ協定から脱退した。中国が真剣に取り組まない中で、先進国だけいくら頑張っても効果が出ないことを察知したからであろう。今回は、環境保全や国際協調を重視するバイデン大統領に代わったため、COP26にもそれなりの期待が寄せられたが、努力目標すら設定できずに終わってしまった。グレタさんが言うように失敗だったわけである。
 そんな国際情勢の中で、自動車メーカ等カーボンニュートラルに向けての姿勢を喧伝している企業は多い。優秀な自動車メーカの経営陣なら、車のカーボンニュートラル化が地球の温暖化抑制にほとんど効かないことは百も承知であろう。ただそれでもカーボンニュートラルを口にすることには理由がある。欧米の自動車メーカがカーボンニュートラルという錦の御旗を得て、ハイブリッド車で先行された劣勢を今度は電気自動車で挽回しようとしているからである。もう世界中がカーボンニュートラルの流れに巻き込まれていて、たとえ効果がほとんど無いと分かっていても、流れに逆らうことができないのである。一般消費者も、電気自動車はCO2を排出しないから良いと思ってしまう。その電気を発電するのに、火力発電所化石燃料を燃やしていることに気付いていないのである。