タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

なぜ広葉樹は落葉し針葉樹は落葉しないのか?

 ウォーキングコースの街路樹も色づいてきた。もうしばらくすると、色づいた葉も風に吹かれて散っていくだろう。一方で針葉樹は一年中緑の葉のままで、晩秋に落ち葉を散らすことはない。今日はその辺りの違いを調べた。
 最初、針葉樹はみな裸子植物であり、裸子植物は落葉しないと考えたが、裸子植物であるイチョウは落葉するので、これは針葉樹か広葉樹の違いと考えた方が良いだろうと思った。

 上図は植物の進化系統樹であるが、イチョウと針葉樹類は別系統で進化したことが分かる。また被子植物は、「花」という武器を身に付け、系統樹の最後に分岐したことが分かる。
 針葉樹と広葉樹の違いを調べていて興味深い記事を見つけた。針葉樹と広葉樹では、根から葉へ水を運ぶ仕組みが違う。

 上図は「仮道管」と「道管」の違いを示している。仮道管Bでは、水は仮道管細胞の上端まで汲み上げられ、そこで隣の仮道管細胞へ細胞壁の穴を通して渡される。仮道管は謂わば「バケツリレー方式」で水を運ぶ仕組みとなっている。一方で道管Cでは、下から上まで一直線に水が汲み上げられる方式となる。当然仮道管より道管の方が汲み上げ効率が良い。ただし効率が良い分欠点がある。一旦この水の流れがどこかで途絶えれば、その影響がその管全体に及んでしまう。一方で仮道管の方は、どこかの細胞で問題があっても、その問題細胞とは異なる隣接細胞へ水を流すように変更すれば、影響を最小限に止めることができる。裸子植物仮道管を有し、被子植物道管を有する。よって、被子植物の方が効率良いが、水汲み上げシステムのどこか一部に問題が生じた時に大きなダメージを被ることになる。
 さて、ここまでの情報に基づき、「なぜ針葉樹は落葉しないのか?」を考えてみた。
 裸子植物古生代末期に生まれ中生代に大繁栄したが、中生代最後の白亜紀被子植物が生まれてからは、以降で被子植物の時代となった。裸子植物の植生範囲が次々に被子植物に奪われていく中で、裸子植物の針葉樹類は、寒冷地を新天地として進化していった。寒冷地は冬期間凍結するので、道管を有する被子植物は、道管内の一部が凍結すると死活問題となり、寒冷地へは進出できない。一方で針葉樹類は、葉からの蒸散量を減らすよう葉面積を減らし、水の汲み上げ量を減らす方向へ進化した。裸子植物は仮道管を有し、この仕組みは管内の一部が凍結しても、凍結していない管を繋ぎ繋ぎバケツリレーすることで、少ない汲上げ水量であれば何とか生きながらえることができるのである。
 さて、被子植物の時代となった新生代は、温暖期と氷河期が交互に現れる時代となった。被子植物にとっても、冬期間は光合成量が落ちるつらい時期となる。これに対応すべく被子植物の広葉樹類は、秋に葉を落とし冬期間の活動量を最小にする方向へ進化した。
 イチョウは例外である。イチョウ中生代に生まれ、ほとんど遺伝子の形を変えず(進化せず)、2億年近い歴史の中で徐々に個体数を減らし、絶滅しかけていた。絶滅の危機を救ったのは人間であり、人間の保護にて復活を遂げた。神社の大きなイチョウも、銀杏並木のイチョウも皆人手が加わったものであり、もう野生のイチョウはほとんど残っていない。イチョウは仮道管を有する裸子植物の広葉樹で、被子植物との生存競争の中で数を減らしながら何とか生き残った「生きた化石」なのである。

P.S.
 世界一高い木は、アメリカ・カリフォルニア州のレッドウッド国立公園にある「ハイペリオン」と呼ばれる木で、高さが115.61m、直径4.84mもあるセコイアで、ヒノキ科セコイア属に属する大型の針葉樹である。高さが10mまでなら、大気圧で水を汲み上げられることは理解できるが、10mを超えると、大気圧にプラスとなる力がないと水は汲み上がらない。具体的に言えば、この力は、毛細管現象を引き起こす分子間力と浸透圧である。ただ、道管のように上から下まで一直線状の水管では、この力は10mを遥かに超える高さまで水を汲み上げる力とは成り得ない。針葉樹が高木に成り得る理由は、針葉樹が道管ではなく仮道管を有しており、この仮道管がバケツリレー方式で水を高所まで汲み上げできるからである。