タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

三半規管の進化

 先週は眼の進化について調べたが、今日はその次の感覚器として耳の進化について調べた。ただ耳と言っても、音を聞く役割の耳ではなく、体のバランスをとるための耳、すなわち「三半規管」が今日のテーマである。
 まず、三半規管という言葉の意味だが、半規とは半円を意味し、従って三半規管とは、3つの半円状の管を意味する。f:id:TatsuyaYokohori:20220309115332p:plain
 上図はヒトの内耳の拡大図であるが、この図の左側に三半規管が描かれている。頭部が回転すると半規管の内部をリンパ液が流れることになるが、3つの立体的に交差した半規管を有することで、X軸、Y軸、Z軸 それぞれの回転を感知することができる。

f:id:TatsuyaYokohori:20220309115638p:plain
 上図は半規管の数がマウスで3つ、ヌタウナギで1つ、ヤツメウナギで2つあることを示している。脊椎動物の進化において、顎(あご)の有無は大きな分岐点となるらしい。脊椎動物の祖先は最初は顎を持たない無顎類(円口類)の魚類であったが、その後、顎を持つ有顎類(顎口類)の魚類へ進化し、この有顎類の魚類から両生類、爬虫類、哺乳類へと進化した。上図を見ると、半規管の数も1から2,2から3へと進化したように見える。しかしながら、そうではないことが最近明らかになった。
f:id:TatsuyaYokohori:20220309120229p:plain
 上図は、この複雑な内耳形態が5億年以上前の脊椎動物共通祖先の時代に、遺伝子的には準備されていたことを示している。顎口類だけがその遺伝子を全部発現させ、現在三半規管を有する動物になっているが、円口類では一部の遺伝子の発現が抑えられ、二半規管や一半規管の動物になっている。従って、半規管の数が1→2→3と進化したのではなく、最初から3つ用意されていたものが、円口類では1つや2つに退化したことになる。

 冬季オリンピック平野歩夢選手の演技を見ていると、『こいつの三半規管は半端ない』と思った。その三半規管の原型が、脊椎動物の共通祖先時代に出現していたことになるが、この時代の動物が水棲だったことを考えれば「さもありなん」である。ヒトは2次元の地面に縛られる生活をしているので、三半規管の有難さを感じることは少ないが、水中生活をする魚類や空中を飛び回る鳥類にとっては、この三半規管からの情報を小脳で素早く処理し、3次元空間の運動へと繋げる能力は、生き残りへの大きな力となり、進化の推進力となるのであろう。