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田舎の年金暮らしのたわごと

免疫と変異株(オミクロン)との関係

 コロナ新規感染者数が3万人を超え、まん延防止等重点措置が13都県に追加発令されることになった。行政側として「対策やってる感」を出し、国民からの無策批判を避けたい気持ちは分からないでもないが、「まん防対策をしても感染は拡大するし、しなくても感染は収束する」というところが理解できていないように思える。ましてや、今回のオミクロン株では「重症化防止を優先する」と決めていたのだから尚更である。今日は免疫と変異株の関係をおさらいし、対応策がどうあるべきかを再考したい。
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1.抗体とオミクロン株の関係
 抗体(図中)はB細胞(図中②’)から産生され、ウイルスのスパイク蛋白質にくっつき、ウイルスの増殖を抑制する。オミクロン株はスパイク蛋白質に多くの変異が生じたため、変異前のスパイク蛋白質を抗原として作られたワクチンの効果は低下する(低下の度合いは3.で説明)。また、抗体量は時間とともに低下するので、オミクロン株に再感染する可能性は時間とともに高まる。
2.B細胞とオミクロン株の関係
 B細胞(図中)は大量のクローン細胞(図中②’)に分化し、これが抗体を産生することでウイルスの増殖抑制の一端を担っている。抗体とは違いB細胞()は記憶細胞として長期間残るので、再感染した場合は直ちに活性化し、②’へ分化して抗体産生を始める。これは、ワクチン接種後の期間が長くなれば、感染防止の効果は下がるが、重症化防止の効果は長期間維持されることを意味する。
3.ヘルパーT細胞(CD4+ T Cell)とオミクロン株の関係
 ヘルパーT細胞(図中)は樹状細胞からエピトープ(抗原決定基)を受け取りB細胞へ提示する。スパイク蛋白質に特異的なエピトープ167個についてオミクロン株の変異と関係があるか調査した結果、47個(47/167=28%)が関係があり、オミクロン変異の影響を受ける(オミクロン株を抗原として認識できない可能性がある)ことが分かった。これは逆に言えば、72%(100%ー28%)がオミクロン株の変異の影響を受けないことを示している。そしてこの割合(72%)は、ワクチン接種で作られた抗体がオミクロン株に対してもかなり高い効果を発揮できることを示している。
4.キラーT細胞とオミクロン株の関係
キラーT細胞(CD8+ T Cell、図中)は樹状細胞からエピトープ(キラーT細胞用エピトープでありヘルパーT細胞用とは異なる)を受け取り、ヘルパーT細胞の制御の下で活性化する。キラーT細胞は活性化後分化してEffectorT細胞(④’)となり感染細胞を攻撃してウイルスごと死滅させる。スパイク蛋白質に特異的なCD8+用エピトープ224個についてオミクロン株の変異と関係があるか調査した結果、32個(32/224=14%)が関係がありオミクロン変異の影響を受けることが分かった。これは逆に言えば、86%がオミクロン株の変異の影響を受けないことを示している。
 このキラーT細胞免疫(細胞免疫)については12/10のブログで「ファクターXの正体」と書いたが、「抗体免疫」と比べると抗原特異性が低く、逆に言えばウイルスが少々変異しても免疫として働く。また、3.と比較して言い換えれば、キラーT細胞を主体とする「細胞免疫」の方が「抗体免疫」より効果が長期に維持され、様々な変異株に対しても幅広く対応できる。そしてこれは、ワクチン効果が、「感染防止」に比べ「重症化防止」の方でより長期に持続し、より多くの変異株にも効くことを意味する。

<対策>
1.ブースターワクチン接種(3回目接種)
 目的が抗体量を上げるため(感染防止のため)であるなら、ブースター接種が始まる前に第6波がピークアウトしていることになりそうであり、タイミングを逸した遅すぎる対策となる。11月末に空港検疫でのオミクロン株が検出されてから一ヶ月半も経って、まだ医療従事者の接種も終わってない状態なので、対応の遅さは呆れるばかりである。また、目的が重症化防止であれば、上述したように、ワクチン接種はある程度時間が経過した後でも重症化予防効果は維持されるので、コスパが悪い対策(掛けているコストの割には効果が低い対策)となる。
2.まん延防止等重点措置
 1/11のブログで、「新型コロナ感染症は、まん延防止措置や緊急事態宣言発令に関係なく、感染が拡大する中で国民の感染防止意識が高まり、感染リスクが高い人の人口が少なくなることで収束に向かう」と説明した。今日のTVニュースでは、まん防発令前からもう既に飲食店街の利用人口は減っていると言っていた。これは、発令しなくても、人々の緩んでいた感染対策意識が高まり、既に感染収束の方向(実際、感染拡大スピードは鈍化し始めた)に動いていることを意味している。また発令しても一部の飲みたい人(リスクの高い人)は飲みに行くのであり、そういう人が自粛行動を取るのは自分の身に差し迫った恐怖を感じた時であるから、これは発令に関係無く、感染リスクの高い人の意識変化で感染が収束に向かうことを意味している。もちろん、全く効果がないわけではないので、もしやるなら「時短」や「酒類提供不可」ではなく、「人数制限」に留める方向でやるべきである。

P.S.
新規感染者が昨日(1月20日)時点で4万6千人となり、感染拡大スピードに鈍化の傾向が見られるが、感染者数増加の傾向は変わっていない。そんな中、オミクロン株のブレイクスルー感染について、興味深い記事があった。要約すると以下となる。
 「ドイツでワクチン3回目接種を終え南アに来た7人のグループ全員がオミクロン株に感染した。全員が軽症か中等症であったが、全員の体内でT細胞の強力な反応が特定された」
この症例を、免疫とオミクロン株の関係で説明すると以下のようになる。
 「3回目接種により抗体量()は基準値を超えていた。ただし、この抗体のオミクロン株に対する有効性は十分ではなかった(元々の有効性が90%でオミクロン株に対してその有効性の72%が保持されると仮定すると、有効性=0.9*0.72=65%程度と推計できる)。ウイルス被ばく量が多く、かつ抗体有効性が低かったため7人は感染してしまった。感染すると今度は細胞免疫(④’)が働き出した。ブースター接種をしていたので、まだ十分のEffectorT細胞(④’)が高いレベルで残存していて、T細胞()も直ぐにEffectorT細胞の増産を始めたので重症化には至らなかった」

 抗体は感染を抑止するだけで、感染して細胞内に入ったウイルスを除去することはできない。一方でT細胞はウイルスを感染細胞ごと死滅させる。抗体を第1防衛ラインとするならT細胞は最終防衛ラインとなる。専門家が説明する時、この辺りの細かいところを省略して、「抗体は・・」とか「ブースター接種で・・」とか言う。それを聞く政府の関係者も国民も、そんな深いところが分かっていないので誤解したり間違ったりする。まあ、しょうがない。