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田舎の年金暮らしのたわごと

ファクターXの正体

 理化学研究所は、日本の新型コロナウイルスの感染者数が欧米と比べて少ないとされる要因「ファクターX」について、HLAと呼ばれる細胞の表面にある物質の種類が関係しているのではないかという研究結果をまとめ発表した。
 私は昨年12/20のブログで、「ファクターXの正体は交差免疫」という説を考察していた。その考察から1年が過ぎ、理化学研究所が今回の発表で明らかしたファクターXの正体はやはり「交差免疫」であったが、私の想像していた交差免疫とは全く違っていた。私は抗体による交差免疫の仕組みを考えていたが、理化学研究所は、細胞性免疫が交差免疫として働くことを示した。以下の図で説明すると、私は図の左方中央で示す抗体が交差免疫として働くものと思っていたのだが、実際は、図の右方から下方で示す細胞性免疫(キラーT細胞)が交差免疫として働いていたことになる。抗体は抗原(ウイルス)を標的にするが、キラーT細胞は感染細胞を標的にする。両者は全く異なる免疫系の2本柱であり、私は別の柱の方を想定していたことになる。
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 今日は、この細胞性免疫がどのように働き、それがどうして交差免疫的にも働き、なぜファクターXの第一要因と成り得るのか調べてみた。f:id:TatsuyaYokohori:20211210133715p:plain
 上は細胞性免疫がどのように働くかを示している。細胞がウイルスに感染すると、細胞は細胞膜上にあるHLAに抗原決定基(エピト-プ)を提示する。このエピトープをキラーT細胞が感知して結合し、破壊物質を放出してウイルスを感染細胞ごと破壊する。ここにおいて、新しい抗原に感染した場合、免疫系は、新しいエピトープを感知できる受容体を備えたキラーT細胞(母細胞)を活性化させ、それが細胞分裂してクローンである大量のキラーT細胞が産生され、感染細胞に向かうことになる。このようにして、細胞性免疫も獲得免疫であり、また、抗原に選択的に働く。
 HLAは白血球の血液型と呼ばれるものだが、数万種類もあり親子鑑定にも適用される。このHLAが細胞膜上に突起として存在し、免疫系において重要な役割を果たしている。
 理研は、日本人に多い型である HLA-A24 に結合しキラーT細胞を活性化させる物質(エピトープ)を発見した。そして、このエピトープの類似部位が季節性コロナウイルスにも存在することを示した。これは、季節性コロナウイルスに感染する(従来のコロナウイルスで風邪をひく)と、新型コロナにも効くキラーT細胞が活性化することを意味する。
 HLA-A24は、日本人の6割が保有する。一方で欧米人の保有は1、2割に留まるとのこと。まとめると以下になる。
・日本人にはHLA-A24という型を持っている人が多い一方で欧米人にこの型は少ない
HLA-A24型の人が風邪をひいた時、キラーT細胞が活性化しこれが新型コロナウイルスに対しても交差免疫として働く

 理研の発表とは別に、今年6月に HLA-A24に関する興味深い発表があった。以下のような内容である。
『懸念すべき変異株に認定されている「カリフォルニア株(B.1.427/429系統)」と「インド株(B.1.617系統;デルタ型)」に共通するスパイクタンパク質の「L452R変異」が、HLA-A24を介した細胞性免疫から逃避する』
 この発表があった6月時点では、まだデルタ株は流行っていなかったが、この株は日本人の持っていたファクターXの防御壁を無きものにする、最も恐るべき変異株であったわけである。