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田舎の年金暮らしのたわごと

新型コロナウイルス変異株おさらい

 英国で流行している新型コロナの変異株がさらに、「南アフリカ型」へ変異しているとのニュースが流れた。変異株が複数出て来て、しかも「英国株が南ア株へ変異?」とも読み取れる文言で流されると何が何だか分からなくなる。変異株については既に何回かこのブログで書いているが、改めておさらいする。
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 上図は新型コロナウイルスのゲノム(遺伝子地図)を示しており、このウイルスが細胞に感染する際キーとなるスパイク蛋白質に関する領域が Sで示されている。この領域はおよそ4000バイト(4000塩基)ほどあり、これは、おおよそ1300程度のアミノ酸配列をコーディングしている領域であることを示している。
 ウイルスが増殖する際、このゲノムがコピーされ 子ウイルスへ渡されるが、時々コピーミスが起きる。変異株はこのコピーミスでアミノ酸配列が変化することで出現する。アミノ酸配列が変わるということは、その配列を設計図として生成される蛋白質が変わるということを意味する。つまりこれは、ウイルスのスパイクの形が変わるということを意味する。
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 上図はウイルスのスパイク蛋白質が細胞表面のACE2受容体にアクセスする際のシミュレーション・スナップショットである。ミクロな世界では、酸素原子が電気的にマイナス、水素原子が電気的にプラスに帯電するので、プラスとマイナスが引き合い、互いに結合する力として働く。ウイルスはこのようにして細胞表面にある受容体と結合し細胞内へ入り込む。変異株においては、スパイク蛋白質の形が変わることで、結合個所が増えたり結合力が増したりする場合がある。これは感染力がアップすることを意味する。そして、このように感染力がアップした変異株は、より多くの人に感染するようになり、メジャーなウイルス株として感染拡大し生き残ることになる。
 最初の変異株は、D614G と呼ばれており、武漢の原株から変異し、欧米でパンデミックを引き起こし、昨年3月には日本にも侵入して非常事態宣言発出に至った。D614Gとは、スパイク蛋白質アミノ酸配列の614番目において、アスパラギン酸(D)からグリシン(G)に置換したことを示している。このD614G置換の株は全世界に広まったので、以降で出現した変異株はD614G置換を含む株となる。
 英国株はN501Yと呼ばれており、アミノ酸配列501番目においてアスパラギン(N)からチロシン(Y)へ置換したことを示している。これは、英国株が D614G置換+N501Y置換 であることを意味する。また南ア変異株はE484Kと呼ばれており、アミノ酸配列の484番目においてグルタミン酸(E)からリジン(K)への置換が発生している。これは、南ア株が D614G置換+E484K置換 であることを意味する。ここまで説明すると「英国株が南ア株へ変異」の意味が見えて来る。英国株(D614G置換+N501Y置換)に南ア株の代表的置換であるE484K置換が追加されると D614G置換+N501Y置換+E484K置換 という変異株になる。そして「英国株が南ア株へ変異」とは、感染力がアップしたと考えられる3つの置換(D614G置換+N501Y置換+E484K置換)を合わせ持った変異株が出現したということになる。
 ファイザ社のワクチンもモデルナ社のワクチンもD614G置換に関しては織り込み済みであるが、N501Y置換やE484K置換は織り込まれてない。この2つの置換だけでワクチンが全く効かなくなるとは考えられないが、有効性が下がることは間違いない。