タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

ヒトとチンパンジーの分岐点

 今日は、ヒトとチンパンジーが進化の道筋でどのように分岐したか考えてみた。

 上図は、最近のゲノム解析の結果、ヒトとチンパンジーが分岐した年代が760~600万年前と推定されたことを示している。


 上図は、現在最古の人類と見られるサヘラントロプス・チャデンシスであり、北アフリカ・チャドの約700万年~約680万年前の地層から発見された。一昔前までは、ヒトへの進化は脳容量の拡大が起点となったと考えられていたが、現在は、直立二足歩行が先でその後に脳容量の拡大が始まったと考えられている。サヘラントロプスの頭蓋骨の下方に脊髄が通る大後頭孔があることから、サヘラントロプスは直立二足歩行をしていたと考えられている。因みにサヘラントロプスの推定脳容量は約350~380ccで、チンパンジーと同じぐらいである。
 サヘラントロプスが発見された北アフリカの当時の気候は、湿潤から次第に乾燥化する途上にあり、森林がまだ残りところどころに疎林が広がり始めた状態であったと想像される。従来は、東アフリカの草原地帯でヒトの直立二足歩行が始まったと考えられていたが、現在は、森がまだ残る環境で始まったと考えられるようになった。
 それでは、ヒトを直立二足歩行へ導いた進化の推進力は何だったのであろうか? 「進化論はいかに進化したか」(更科功著)の中で、著者は、チンパンジーの多夫多妻から一夫一婦的な社会生活へ移行したことが、直立二足歩行への推進力になったと述べている。チンパンジーの世界では、メスが発情すると最初にボスのオスが、その後複数のオスが寄ってたかって性交し、メスはそれを受け入れる。オスにとっては、どの子が自分の子か分からない。子育ては専らメスが担当し、オスの役割はグループ全体の安全を守ることぐらいに限定される。ヒトとチンパンジーが分岐する前は、今のチンパンジーのような多夫多妻の社会だったと想像される。そしてそんな中で一夫一婦的な社会集団が生まれたとしよう。このグループのオスは、メスが生んだ子は自分の子だと分かるから、子育てに積極的に参加することになる。特に出産直後は母親へせっせと食物を運び、生まれた子供の世話も手伝うことになる。著者は、このようにオスとメスが育児や家事を共同で行う社会が、直立二足歩行のメリットを引き出す結果になったと見ている。すなわち、直立二足歩行で自由になった手を持つことで、その手を使って物を持ち運んだり道具を使ったりできるようになり、それが育児の充実化に繋がって子供の生存率を高めることになり、結果的には自然選択の推進力になったわけである。
 要因的にヒトへの進化の道筋をまとめると、一夫一婦制社会の出現 → 直立二足歩行 → 脳容量増大 → ヒト となる。それでは、どのようにして一夫一婦制社会が出現したのであろうか?

 上図はヒトとチンパンジーの染色体を比較した図である。ヒトの染色体は23対46本であり、チンパンジーの染色体は24対48本である。因みに、オランウータンもゴリラも染色体数はチンパンジーと同じ24対48本である。ヒトの第2染色体は、チンパンジーの第12、第13染色体が融合してできたものであり、これらの事実は、ヒトとチンパンジーが分岐した時期にこの染色体融合が起きたことを示唆している。
 染色体融合は通常の突然変異を遥かに超える大変異である。こんな変異は通常は自然選択の中で淘汰され生き残れないのだが、ヒトへの分岐の過程でこの大変異を経験した原始人類は生き残って子孫を残し、我々現生人類の祖先となったことになる。想像だが、この染色体46本の集団は直ぐにチンパンジー集団から排除され、独自のグループを作って生きていくことになったであろう。そして、そういう中で一夫一婦制社会という新しい社会制度が出現したのではなかろうか?

P.S.
①ヒトが直立二足歩行をする前、これを行った動物はいなかった。この理由は、直立二足歩行には、短距離を走るスピードが遅いという致命的な欠点があったからである。
② ヒトへと分岐して一夫一婦制の社会へ移行した時、平和な社会が訪れた。それまでのメスを求めてオスが争う社会が終わったからである。その後ヒトは、戦いの道具である犬歯が小さくなるように進化し、この犬歯の大きさがチンパンジーとの違いの一つとなった。
チンパンジーは出産後2,3年は排卵がなく発情しない。一方でヒトは排卵停止期間が短くなる方向へ進化し、年がら年中受精できるようになった。ヒトはこのようにして、出産数と子供の生存率が高まり、繁殖力がアップした。
④ 直立二足歩行で手を使う頻度が各段に増えた原始人類は、10本の指を器用に動かせるよう脳容量が拡大する方向へと進化して行った。