タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

投資とリスク

 株価が上がっている。歴史を振り返れば、80年代後半にバブルに突入し地価も株価も上がった。90年代に入り「財テク」という言葉に踊らされて一般投資家が増えた時期もあったが、その後バブルが弾けて皆痛い目に会った。そして日本は失われた20年に突入した。その間2008年にリーマンショックを経験し、今回2020年のコロナショックに至った。ところがそのコロナショックにより、株価は昨年3月に底値を付けたが、その後急速に回復しここ最近はバブル後最高値の域に達している。
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 コロナ禍で不況にあえいでいる人が沢山いる中、証券会社では株価が上がって大忙し、機関投資家やトレーダーは濡れ手に粟で資産が増えて笑いが止まらない。貧富の差がますます拡大している。
 株価が上がっているいくつかの理由が説明されている。ただ、私にとっての関心事はリスクマネージメントである。つまり、『投資家はこの状況で資産が増える「リターン」と資産が減る「リスク」をどう天秤に掛け判断しているのだろう?』という点に興味がある。背景にあるのは、経済学者ピケティ氏の言う「資本収益率は経済成長率を上回る → 金持ちは益々金持ちになる(ごく一部の人にて世界の大半の富が占有される)」である。私は世界がピケティ氏が言った方向に動いているような気がするし、このコロナ禍でそのスピードに拍車がかかったように思えてならない。そしてもしこれが真実ならば、「このWithコロナ時代の時流に乗ってさえいれば、難しいことを考えなくても、資産を持っている人は資産を増やすことができる」ということになる。私は、投資家は今が上げ基調だからリスクが少ないと見ている気がしてならない。投資素人の私の目にもこのコロナ禍の世界が「Low Risk High Returnが見込めるという千載一遇の機会」に見えるのである。
 しかしながら「今の株価は実体経済を反映していないから、もうそろそろこのバブルは弾けるだろう」という人もいる。しかもずっと前からそう言い続けている。日本の学校では「投資」というものを教えない。「リスクマネージメント」も教えない。そういう中で株価が下がるかも知れないという評論家がいると、一般の日本人は投資をせず、Zero Risk No Returnの道を選択することになる。
 そこで今日は、金儲けという気持ちを捨て、純粋に真実を知りたいというアカデミックな動機で株価上昇のからくりを探ってみた。
 昨日の参院予算委員会で黒田日銀総裁より、ETF(上場投資信託)の含み益が12兆円になるとの報告があった。ETFとは日経平均株価TOPIX東証株価指数)に連動するように運用されている投資信託であり、日銀がETFを買うことによりコロナ禍の株価下落を下支えしていたことになる。そしてその金額がでかい。現在日銀は年12兆円までETFを購入できる枠組となっているが、含み益が12兆円ということは、12兆円で買ったETFが現在24兆円の資産価値になっていることを意味する。そしてこの12兆円は、国民一人当たり10万円に相当する。
 このような事実が分かれば、投資家心理も見えてくる。日銀の行動様式を良く知っている投資家は「コロナ禍では株価は下がらない」と確信するのである。何故なら、もし株価が下がると日銀が買い支えてくれるからである。そしてこのような投資家心理が働いたので、ここまで株価が上がったのである。
 リスクマネージメントの観点から考えれば、上がるという期待感以上に下がらないという安心感が意味を持つ。また、ある母集団の平均値が必ず上がるという予測が立つなら、これぞと思うものを1点買いするのではなく、ETFのような平均値連動ものを買っておけば、リスクを最小にしながら確実に利益を得ることができる。
 米国財務長官に就任したイエレン前連邦準備制度理事会FRB)議長は、財政支出による財政悪化懸念に対して、「金利が歴史的に低く、長い目で見れば利益はコストをはるかに上回る」と述べ、財源確保のため50年債の発行も検討するとした。素晴らしい考え方だと思った。日本の財務省国債を「借金」としか見れないのに違いない。一方で米国の財務省は「投資」と見ているように思える。投資と見ているから、それに見合う「利益」という風に考えるのであろう。
 さて、「リスク」とか「投資」を考えない日本人に明るい未来は来るのであろうか?