タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

新型コロナウイルス再考(その3)

 今日は、新型コロナウイルスがどのように生まれ、この先どのような運命を辿るのかについて考えてみる。新型コロナウイルスは遺伝子解析からコウモリ由来と言われている。SARSは自然宿主のコウモリから直接人へ感染したか、あるいはハクビシンを経由して人に感染が広がったと考えられているし、MERSは自然宿主のコウモリからヒトコブラクダを経由して人に感染が広がったと考えられている。新型も含めて一般にコロナウイルスは、コウモリへはさほどダメージを与えないため、今後もコウモリ目の中で平和共存的に生き続けるものと考える。

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 次に、種の壁とは何かを考える。ウイルスは種の壁を越え新しい宿主と出会った時、感染爆発することが多い。上図はインフルエンザにおける種の壁を示している。この図では、トリインフルエンザウイルスは鳥にしか感染せず、ヒトインフルエンザウイルスは人にしか感染しないことを示している。このような選択的感染が生まれる理由は、鍵(ウイルス突起)と鍵穴(感染細胞の受容体)の関係で説明できる。鳥類の細胞にはトリインフルエンザウイルスに適合するα2-3型のシアル酸受容体が存在するのに対し、人の細胞には、ヒトインフルエンザウイルスに適合するα2-6型のシアル酸受容体が存在する。このようにして、感染できるウイルスはその鍵穴に適合する突起を持ったものに限定されることになる。ただ、その鍵穴の違いは見ての通り非常にわずかなものであり、シアル酸がガラクト-スの3番炭素に結合するか6番炭素に結合するかの違いでしかない。これはつまり、種の壁は壁ではあるが遺伝子変異により乗り越えられる壁であることを意味している。ブタの気管にはα2-3型およびα2-6型双方の受容体が存在する。これは、ブタがトリインフルにもヒトインフルにも感染し得ることを意味する。実際ブタ対インフルエンザウイルスの戦いの中で2種類のウイルスに同時に感染することが生じ、そこで昨日のブログで説明した抗原シフトが起きて、α2-3型にもα2-6型にも適合できるブタインフルエンザウイルスが誕生した。
 過去にパンデミックを引き起こしてきたH1N1(スペイン風邪)、H2N2(アジア風邪)、H3N2(香港風邪)も遺伝子解析により、全て鳥類で流行していたウイルスが、遺伝子配列の変異によりα2-3型とα2-6型とのわずかな種の壁を越えて人間界にも広まったものだと考えられている。
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 上図は、新型コロナウイルスを強制的にヒト、コウモリ、ブタ、ハクビシン、マウスに感染させた場合のウイルス抗原の活性度を示す。新型コロナウイルスがマウス以外のヒト、コウモリ、ブタ、ハクビシンに感染したことを示しており、幅広い種で感染が広がっていることが推察できる。コロナウイルスの場合同じ哺乳類であるコウモリが自然宿主であるため、インフルエンザと比較して種の壁はより低いことが想像される。ただこれは、コロナウイルスの方がパンデミックを引き起こし易いことを意味しない。今回の新型コロナウイルス感染症も50年前であれば「今年の風邪はちょっとたちが悪い」程度で見過ごされていたであろう。コロナウイルスは毒性が低いため世間の注目を引くまでには至らないのである。それでは、何が毒性の違いを引き起こすのであろうか?
 昨日のブログで新型コロナウイルスのゲノムサイズが30kb程度と説明したが、インフルエンザウイルスのゲノムサイズはその半分ほどしかなく、しかも8本に分節している。この違いは、ゲノムコピーに掛かる時間がインフルエンザウイルスでは圧倒的に短く、従って増殖スピードが圧倒的に速いことを意味する。そしてこの増殖スピードの速さがインフルエンザウイルスの毒性の強さを表していると言える。インフルエンザは感染後直ぐに発症し高熱を発するようになるが、これは短時間で膨大な量にまで増殖してしまったウイルスに対する免疫系の緊急対応だと言える。
 次に、この新型コロナウイルスがどのような運命を辿るかを考えてみる。インフルエンザのパンデミックの歴史を振り返れば、アジア風邪(H2N2)の3年(1956~1958年)、香港風邪(H3N2)の2年(1968~1969年)と収束まで2,3年を要しており、その後は通常の季節性インフルエンザの一つとして局所的流行を繰り返すに留まっている。これらの歴史に基づいて考えれば、今回の新型コロナウイルスは、早々とワクチンが開発されているので、2021年前半には沈静化の方向に進むと思われる。
 最後に、コロナウイルスがインフルエンザのように、今後何回もパンデミックを起こす可能性があるかについて考えてみる。まず、インフルエンザウイルスが何故撲滅できないかを考える。理由が2つあり、ひとつは、「変わり身の速さ」、あと一つは、「キャリアが豊富で拡散力が大きい」である。「変わり身の速さ」については既に説明済みであるが、8分節ウイルスの抗原シフト能力が大きく寄与している。また、「キャリアが豊富で拡散力が大きい」については、鳥類を自然宿主としており、拡散力の大きい渡り鳥がウイルスキャリアとなっている点が大きい。また、中国南部で家畜であるブタとアヒルと人間が密接に交わりながら生活しており、新型を産み出す温床となっている点も大きく寄与している。このインフルエンザウイルスに対してコロナウイルスは、どの特性を取っても比較的穏やかなものであり、インフルエンザウイルスを超えるものではない。以上の考察に基づき、今後のコロナウイルスの新たなるパンデミックの可能性に関しては、インフルエンザよりも小さいと考える。