タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

新型コロナウイルス再考(その2)

 昨日は新型コロナウイルスのどこが怖いかについて考察した。今日は新型コロナウイルスがどの程度変異し、ワクチンがその変異に対しどの程度有効性を維持できるかについて考えてみる。
 世間では「ウイルスは変異が速いから今度できたワクチンも直ぐに効かなくなるかも知れない」とまことしやかに言われている。確かにインフルエンザワクチンは、毎年毎年流行種を予測しながら「今年はH1N1型をXX%」とブレンドして作っている。そんな予備知識もあるのでなおさら、未知なるウイルスの変異を恐れてしまう。今日は「得体の知れないものを無闇に怖がるのは良くない」という思いで、その得体をクリアに見えるようにしてみたい。

f:id:TatsuyaYokohori:20201210205205p:plain 上図は新型コロナウイルスのゲノムを示している。新型コロナウイルスは1本鎖のRNAゲノムであり、サイズが30kbぐらいで、結構大きなゲノムである。ゲノムはいくつかの領域に分かれており、Sと示されているのは、感染時にキーとなるスパイクタンパク質をコーディングしている領域である。ファイザ社やモデルナ社のワクチンは、ゲノムの中のこのS領域の遺伝子を使ったmRNAワクチンであり、ゲノム全体に占めるS領域の比率が13%程度であることから、今後生じる変異の13%程度がワクチンの効き目に影響与える可能性があると言える。ただ変異の中でも遺伝子に影響を与える変異と与えない変異があるので、実際、ワクチンの効き目に影響を与える変異はかなり少数になる。
 ここまで確認されているSpike領域の変異は、D614Gと称される変異で Spikeタンパクのアミノ酸残基614番のアスパラギン酸グリシンに置換わる変異となっており、この変異でSpikeがより受容体(ACE2)に結合し易くなったため感染力がアップした。実際この変異種は3,4月に欧米で猛威をふるったものであり、現時点においても全世界で一番流行している変異種となっている。ファイザ社やモデルナ社のワクチンは、この変異種のRNAも組み入れて作成されているはずである。

f:id:TatsuyaYokohori:20201210205556p:plain 上図はインフルエンザウイルスのゲノムを示す。インフルエンザウイルスも1本鎖のRNAゲノムであるが新型コロナウイルスと異なり8本に分節されている。HAと示されている分節にはスパイクタンパク質がコーデイングされている。変異は全ての領域に生じるがインフルエンザウイルスの場合は、HA分節とNA分節における変異が感染力に大きく影響することから、この2分節の変異タイプによりH1N1型とかH3N2型と言う風に分類されている。
 また、このように分節されていることにより、一つの細胞に複数種のウイルスが感染した場合、以下の図で示すような抗原シフトという現象が生じ、異種ウイルス間での分節のシャッフルが起こり大規模な変異を産み出すことがある。
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 上述したようにインフルエンザウイルスは長い歴史の中で様々な変異種が存在しており、抗原シフトによる大規模変異を産み出す能力も備えている。一方で新型コロナウイルスの方は歴史も浅く変異種も限られており、大規模変異を産み出す能力も備えていない。このため、インフルエンザのように「次の冬にどんな変異種が流行するか?」という心配も無ければ、大規模変異種が生まれる可能性も少ない。ファイザ社やモデルナ社のワクチンの有効性が95%程度と発表されているが、インフルエンザワクチンの有効性よりかなり高い理由は、敵の種類(変異種)が少ないからであり、この有効性の高さは少なくとも向こう1年は維持されると推測する。