一昨日、富山大学のアイドリング脳科学研究センターが英国科学誌「Nature Communications」のオンラインに大変興味深い論文を投稿した。
上は研究成果をまとめた図であり、ノンレム睡眠時とレム睡眠時で脳内での情報整理が異なることを示している。実験では、A,B,C,D,E 5つの 形が異なる部屋が用意され、部屋の優劣(例えば優劣 A>Bとは、AとBの二者択一の時、Aの部屋を選択した場合に砂糖水(報酬)がもらえ、Bではもらえないという優劣。実験では 、A>B、B>C、C>D、D>E の4組の優劣が準備された)を学習したマウスを使って行われた。この実験により、マウスの脳内で、ノンレム睡眠時には「階層構造の構築」、レム睡眠時には「階層構造からの推論導出」が行われていることが分かったと言う。マウスも2つのモード(ノンレム睡眠とレム睡眠)で眠っているのかと研究成果に関係のないところでびっくりした私であった。
上は、今回の研究成果を神経回路網モデルを使って私なりにまとめた概念図である。マウスの脳内には、例えばAの部屋を見た時 同時に発火する神経細胞群があり、このような形でA,B,C,D,Eのパターン記憶(同時に発火する神経細胞群)が存在する。また、2つの部屋の優劣学習により、例えばAとBの関係性においては、Aを代表する神経細胞とBを代表する神経細胞がA>Bという関係性を含めて同時発火する(抽象記憶)。
今回の研究成果の要点は以下の2つである。
1.ノンレム睡眠時に階層構造が構築される
階層構造とは難しい表現だが、私が表現するなら「(ノンレム睡眠時に)順序性を持つ複数のペア情報が総合され統合順位として整理される」となる。4組のペア情報から、A>B>C>D>Eの統合情報が構築されるのである。私の推測で言えば、順序性を持つペア情報ばかりでなく、(たとえ順序性を持たなくても)関係性を持つ複数のペア情報を総合した「情報の体系化」がこのノンレム睡眠時に行われているものと想像する。
2.レム睡眠時に階層構造から未経験の推論が導出される
実験では、マウスにとって未経験のBとDとの間の関係性について、構築された階層構造からB>Dという関係性が類推されることにより、Bを選択して報酬にありついたマウスが多数いたようである。しかも正当率はレム睡眠を十分取ったグループで高かったとのこと。
夢はレム睡眠時に見る。昔私は、「夢は経験したことが再生される」と思っていたが、間違いであった。過去の記憶がそのまま再生されるわけではない。もちろん、夢の中には個々の断片的な体験記憶はあるのだが、夢の中で、断片から次の断片シーンに繋がる時点で、脳が未経験の物語(未経験の新しいシーンの繋がり)を作り出す。また、各断片シーンにおいても、その中に登場する各アイテムは見たことがあり記憶に残るものかも知れないが、脳が夢のシチュエーションに合わせて各アイテムを福笑いのように適当に並べて作った未体験シーンになっているのである。このようにして、夢の中では、脳で整理された階層構造の中から未経験の推論が導き出されることになる。そして、奇想天外な夢を見るのである。