イスラエルとハマスが停戦合意した。戦闘は、トランプ氏が大統領に就任する1日前の1月19日から6週間休止となり、ハマスは人質33人を解放し、イスラエルはパレスチナ人 数百人を釈放する。この停戦は、それを望むトランプ氏と良好な関係を保ちたいネタニヤフ首相が、国内の反対派を説き伏せて成立したものだから、トランプ氏の影響力の賜物と言っても良い。
ネタニヤフ首相とトランプ氏は元々良好な関係であり、トランプ氏が大統領だった2020年には二人で「アブラハム合意」を主導し、イスラエルとアラブ諸国の関係改善を図った。
上図はアブラハム合意に加わったアラブの4ヶ国を示している。この図と以下に示すガザを巡る構図を見ていると気付くことがある。イスラエルはアラブ諸国とは戦っていない。イスラエルが戦っている相手はイスラム過激派の武装集団なのである。2023年10月に始まったハマスとイスラエル間の争いも、アブラハム合意の後、イスラエルと周辺アラブ諸国との緊張緩和が進む中で、イスラエルとサウジアラビアが国交正常化交渉に向かうことを恐れたハマスが、あせって仕掛けたテロ行為だったとの見方もある。
トランプ氏の当選が決まってから、ガザ周辺の状況も大きく変化した。シリアのアサド政権が倒れ、ハマスの幹部はカタールから国外追放になり、イスラエルとヒズボラ間の戦闘が激しくなった末に停戦に至った。事実上、ヒズボラが弱体化し、レバノンの国軍が支配権を回復した形となった。そんな中で、イランからの支援が低下し後ろ盾を失ったハマスは孤立化していった。そろそろ停戦に至る状況になっていたのである。
そうは言っても、バイデン政権では進まなかった停戦交渉が、トランプ政権に替わると決まったとたん何故こんなにスピーディに進むのであろうか? 戦争を続けて儲けたい軍産複合体をバックに抱えるバイデン民主党政権と、戦争を本当に止めたいと思っているトランプ政権との違いであろうか?
P.S.
メディアは、イスラエルに攻撃されるガザ地区のパレスチナ人の惨状を伝えてイスラエルを非難するが、パレスチナ民間人を人間の盾として地下に潜伏するハマスの卑怯な戦い方を決して非難しない。だいたい、「卑怯」という言葉のニュアンスが理解できるのは日本人だけのようである。日本から一歩外へ出たら、「正義」という言葉すらリアリティのある言葉として通じるかどうかも怪しい。日本憲法第9条の「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し・・」という文言が虚しく聞こえる。戦争はどちらか一方の正義を振りかざしても止められない。徹底的なリアリズムの観点で恒久平和の道を探らなければならない。その際、ガザ地区が一時的にイスラエルの管理下に入ることはやむを得ないのではなかろうか? そもそも一番の根本的な問題は、ハマスのようなテロ集団が暗躍するのを取り締まれない今のパレスチナ暫定自治政府にある。パレスチナ人の恨みはずっと残って消えないのだから、せめてそれが暴力に発展しないような制御が必要なのである。そしてこれは、暫定自治政府にはできそうもない点を押さえておかなければならない。