タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

トランプ政権の世界平和戦略

 トランプ氏の当選が決まってから、世界が慌ただしく動き出した。大統領就任前から、その影響力は絶大である。
 ウクライナにおいては、トランプ氏当選以降、ロシアによる攻撃が激化した。トランプ氏のここまでの発言が、「トランプ氏はウクライナの領土割譲による停戦を目指している」と捉えられ、ロシアが、トランプ氏が就任する前に更なる支配地域の拡大を目指して攻勢に打って出たからである。最近になって、戦況を支配領域の地図として視覚的に表す「DEEPSTATE」の公開も中止となった。ウクライナにとって戦況は相当悪化しているようであり、東部戦線でロシアの支配地域が最近更に拡大したと思われる。
 トランプ政権の戦略は、バンス次期副大統領の発言から以下のようだと推察できる。
 ・ウクライナへの支援を止め停戦を目指す
 ・ウクライナNATO加盟は断念させる
 ・領土は現状維持が基本方針
 この方針で停戦調停案を作ったなら、ロシアは満足だがウクライナには多分不満が残るだろう。ただ、ウクライナ国民においても、「和平のため領土一部放棄もやむなし」と考える人が今年7月時点で3割を超えている。最近の戦況悪化でこの数値はもっと上がっているに違いない。もし米国大統領が「この案を飲めないなら米国はウクライナ支援をやめる」と言えば、ウクライナはこの案を飲まざるを得ない。多分、トランプ氏の就任以降、ウクライナ戦争は早々に停戦に向かうであろう。
 さてここで、トランプ政権の戦略における基本的な考え方を探ってみたい。まず、ウクライナ戦争についてだが、バイデン政権はウクライナを支援し、岸田政権であった日本もこれに追随した。この背景にある錦の御旗は「権威主義国家であるロシアの領土侵略戦争を許してはならない」であった。確かにこれを許してしまったら、ロシアは将来、更なる領土拡張に出るだろうし、それを見た中国も同じように領土拡張に動くかもしれない。この懸念に対するバンス次期副大統領の考えは以下である。
 ・ロシアにはウクライナ全土を支配し統治する力がない
 ・米国にとっての最大の脅威はロシアではなく中国である
 ・今ヨーロッパや中東に割いている軍事力を削減し東アジアへ回す
 トランプ氏は、世界の各地で起きている戦争にアメリカの Deep State(闇の政府)が関与していると考えている。現にウクライナ戦争では、戦争を長期化して金儲けをしたい 軍産複合体や、予算と発言力を増大したいCIAやペンタゴンの意見をそのまま鵜呑みにして、バイデン政権はウクライナへの支援を続けてきた。止めようと思えば直ぐにも止められる戦争だと思っているトランプ氏から見れば、バイデン大統領は無能でDeep Stateに操られている極悪人に見えるのである。
 最近シリアのアサド政権が崩壊したが、これもトランプ氏当選が影響している。アサド政権はイスラムシーア派(の異端児)の政権であり、国民の大多数がスンニー派のシリアで独裁政治を続けてきた。反政府勢力であるアルカイダイスラム国はスンニー派であり、CIAが支援していた。そんな中で『CIAなんか潰せば良い』と思っているトランプ氏が当選したのである。シリア反政府勢力は、トランプ氏が就任する前に、一致団結してアサド政権を倒そうと計画し実行した。伸るか反るかの決戦だったわけである。
 また、トランプ氏が当選を決めて直ぐに、カタールは自国内のハマス幹部を国外へ追放した。ハマスとは、イスラエルに越境攻撃を仕掛け1200人も殺害したテロ集団であるあの ”ハマス” である。カタールハマスを匿うことを、今までCIAは容認していたのであろうか? トランプ氏が就任した暁には、このハマス幹部と彼らを匿うカタールは、トランプ氏から非難を受けることになるだろう。カタールはそれを察知してハマス幹部を事前に国外追放にしたのであろう。そう考えると、ハマスイスラエル間の争いもトランプ氏が大統領に就任すれば、早々に停戦へ向かうのではなかろうか。
 これらの事例を通して、トランプ政権の基本的な方針として見えて来るものは
・Deep Stateの解体(特にCIA)
・東アジア以外の地域への米国の介入は最小限に留め、その地域の問題はその地域で解決するように仕向ける
・中国を最大の脅威と捉え、特に日本には防衛力強化を要望する
 トランプ氏は、世界の新しい秩序構築を目指し、そのために、従来の国内制度や機構を再構築しようと目論んでいる。彼の頭の中には、今までのアメリカ政治の反省があるのであろう。歴代のアメリカ大統領候補の中で、2003年のイラク戦争が間違いだったと言ったのはトランプ氏一人である。トランプ氏は、民主党ばかりでなく共和党も含めた今までのアメリカ政治のやり方を根本的に変えようとしている。そこではDemocratic Peace Theoryという 民主化を言い訳にして軍事介入をしてきたアメリカ政治が否定される。「正義のための戦い」とは、所詮 Deep Stateが後から付けた口実に過ぎないとトランプ氏が見切ったのである。
 イーロン・マスク氏がトランプ新政権で「政府効率化省」のトップに就任することが決まった。この役職は、大統領の後ろ盾があれば大きな権限を発揮できる。政府効率化省は、予算執行の可否を決定する権限を有する。日本の財務省主計局は予算を配分する権限を持つが、マスク氏にはそれと同等、いやそれ以上の、予算を執行して良いか否かの強大な権限が付与されることになる。もし彼が、CIAの予算執行を認めなかったら、CIAという組織自身の存在を消し去ることも可能になるのである。トランプ氏が、行政機構を抜本的に改革する大役をイーロン・マスク氏に委ねたのである。
 そのマスク氏が、今度の部署である「政府効率化省」が目指すものについて、以下のようにツイートした。

この「侘び寂び」という4文字の日本語に、アメリカ中が大騒ぎとなった。日本人でも理解が難しい言葉を使って、彼が何を言いたかったかは誰にも分からない。
 ただ、トランプ氏もマスク氏も、考え方は日本人に合うと思われる。彼らの基底にあるのは、争いを好まない考え方である。トランプ氏が戦争嫌いであることは有名である。彼らは、「みんなが豊かになるために競争すること」、この自由主義的考えが間違いであったと気付いたのである。そして国としても、争わず、睦まじく、おだやかに生きて行く方が良いと悟ったのであろう。これぞ侘び寂びの境地ではなかろうか。
 もしこれが本当なら、トランプ政権となる向こう4年間は、日本にとって最も相応しいパートナーと歩む4年間になるであろう。日本としても、トランプ政権に対応できるよう早くトップの首をすげかえなければならない。