タテよこ斜め縦横無尽

田舎の年金暮らしのたわごと

光速を超えるもの

 今日のテーマは「光速を超えるもの」である。アインシュタイン相対性理論を理解する人は少ないが、その理論から導出される「質量とエネルギーは等価:E=mc2乗」とか、「時間は高いところでは速く流れる」とか、こういうつまみ食い的な知識は多くの一般人にも知れ渡っている。実際、東京大学理研の共同研究グループは、これまでの原子時計の精度を2桁も更新する超高性能原子時計の開発に成功し、この超精密時計で測ったところ、「東京スカイツリーの展望台は、地上より10億分の4秒時間が早く流れていることが確認できた」と発表している。これは、相対性理論の検証実験にも繋がる成果であるが、速くなる理由は、「①スカイツリーの展望台では地上より僅かに重力が小さい。②重力が大きいと時間がゆっくり流れる。①と②から、高いところでは時間が速く進む」と理論的に説明できる。たとえ僅かな時間のズレと言っても無視できないことがある。GPSは、相対性理論により人工衛星の中の時計の進みを補正しているから、正しい位置測定ができている。
 相対性理論からは、「光速を超えるものはない」とも導き出せる。これも一般常識となっており、今日のテーマは、その一般常識に反するものの話となる。
 以下に光速を超える3つのサンプルを説明する。
1.宇宙誕生時のインフレーション
 宇宙のはじまりは138億年前。超高温・超高密度の火の玉「ビッグバン」の急膨張により誕生したとされているが、このビッグバンの前に起こったのが「インフレーション」である。東京大学のサイトには以下のように書いてある。
 『1981年に東京大学佐藤勝彦名誉教授(現・自然科学研究機構長)が発表したインフレーション理論は、宇宙誕生の10-36秒後から10-34秒後という超短時間に、極小だった宇宙が急膨張し、その際に放出された熱エネルギーがビッグバンの火の玉になったと説明する理論。インフレーション瞬間の膨張速度は、シャンパンの泡1粒が、光速より速い、一瞬のうちに太陽系以上の大きさになるほど急速です。その爆発的な膨張速度から、佐藤名誉教授は「指数関数的膨張モデル」と名付けました。』

 インフレーションの膨張速度は光速を超えるが、これは相対性理論に矛盾するものとはならない。相対性理論では、「空間の中で物質が移動する速度は光速を超えない」と言っているだけで、空間自身が膨張する速度に関しては何も触れていないのである。
2.宇宙が膨張する速度
 1929年、ハッブルは天体観測により、「遠方の銀河ほど速い速度で天の川銀河(銀河系)から遠ざかり、その遠ざかる速度(後退速度)は銀河までの距離に比例する」と発表した。これがハッブルの法則であり比例定数はハッブル定数と呼ばれている。この速度は遠方へ行けば行くほど速くなり、ある境界球面の外まで行くと光速を超える
 この速度は、天体という物質が遠方へ遠ざかる移動速度のように表現されているが、そうではなく、空間が膨張する速度であるため、1.と同じ理由で光速を超えても相対性理論に反しない。
3.チェレンコフ光
 チェレンコフ光チェレンコフ放射 Cherenkov radiation)とは、荷電粒子が物質中を移動するとき、荷電粒子の速度がその物質中の光速度より速い時に光が生じる現象。正式にはチェレンコフ放射といい、チェレンコフ効果とも言う。例えば水中では光速が真空中の75%まで減速するため、真空中や空気中から光速に近い速度で水中に入った荷電粒子は水中に入った瞬間 光速より速くなりチェレンコフ光を発する。
 この例は正に光速を超える「もの」となるが、相対性理論に反するものではない。「光速を超えるものは存在しない」と言う場合の光速は真空中の速度であり、この真空中の光の速度を超えて移動する「もの」は、やはり存在し得ないのである。

P.S.
 ビッグバンで宇宙が誕生し、それ以降で宇宙が膨張し続けている事実は、多くの一般の人にも認識されている。しかしながら、この中の一部の人は、この宇宙膨張を、『ビッグバン爆発により、銀河が四方八方に飛び散り、その結果、宇宙が今もその慣性で膨張している』と誤解している。2.でも説明したが、銀河は互いに遠ざかる方向へ運動しているのではない。銀河と銀河の間の空間が膨張しているのである。