0と1の間

 英国変異種が日本でも見つかった。もう既に日本でも変異種が広まっているのかも知れない。だいたいにおいて変異種がどこで生まれたかは分かっていない。英国で最初に見つかったのは、英国の遺伝子解析における大学と民間の協力網が世界で一番進んでいるからかもしれない。他の地域で生まれてその後英国に入ったウイルスが、最初に英国で「変異種」と認知されただけかも知れないのである。
 変異種は9月に既に生まれていたという説もある。もしこれが本当なら、秋の小康状態の間に世界各地に広まり、冬の到来に合わせて各国で今感染拡大中なのかも知れない。
 変異種の特性については12/21ブログで既に考察しているが、改めて再考したい。まず、英ロンドン大の論文によれば、変異種は感染力が従来種に比べて56%高まると言われている。感染力が1.56倍にアップしたらどうなるのであろうか? これを想像するには、ウイルスと免疫系がどのように戦っているかを理解できていることが必要となる。ウイルス感染部位には血流に乗って次々に免疫細胞が到着し抗体が発射される。ここにおいて重要な点は、ウイルス側も集団であり免疫側も集団であり、放たれる抗体は膨大な量になるというところである。世の中の議論で抜けている点は、この戦いが、ウイルスが1つ侵入したから感染したとか、抗体ができたから感染しないとか、そういう1か0かの話ではなく、ウイルス量 対 免疫量で決まる戦いであって、答えは0から1までの連続量の中で表されるという点である。
 このように考えると、感染力が1.56倍になるとはどうなることなのかが見えてくる。ウイルスは、従来種が3分掛かって感染した(攻め落とした)細胞数を、その1/1.56の約2分で攻め落とすことができることになる。あるいは、ウイルス濃度が1/1.56でも従来と同じように感染すると考えることもできる。この濃度の違いは、「従来種は50cmディスタンスでも感染しなかったが変異種は70cmディスタンスでも感染してしまう」と表現できるかも知れない。あるいは、マスクのウイルス阻止率が30~40%程度だとして、1.56倍の感染力はマスク効果を無くしてしまうほどの能力と言って良いのかも知れない。
 次に、変異種では重症化率が上がるか? である。ワイドショーにおける専門化の返答は「重症化するという事実は確認されてない」である。専門家はエビデンスが無いことは絶対言わない(言えない)のかも知れないが、これも0か1かで答えようとするから、こんなことしか言えないことになる。これは確率的に答えるべきではないだろうか。感染力のアップはスパイク蛋白質をコーディングするゲノム部位の変異であり、重症化率アップはそれ以外のゲノム部位の変異により発現する。このようなゲノムの変異の中で意味ある変異が起こる確率が非常に稀であるから、そんな稀に起きる変異がゲノムの2ヵ所に同時に起きる可能性は稀の2乗になるくらいの限りなくゼロに近い確率になる。
 最後は、変異種ウイルスにワクチンは効くか? である。ワクチンはスパイク蛋白質に対する中和抗体を誘導する。このスパイク蛋白質に変異が生じて感染力がアップしているのだから、この変異はワクチンの効き方に必ず影響を与える。しかしながら、抗体は一つの抗原に対して複数あり、また抗原と抗体の結合点は複数あるので、抗原側(スパイク蛋白質側)の多少の形状変更でワクチンが全く効かなくなることはない。これらを踏まえて、答えは「ワクチンが効かなくなることはないが95%の有効性は必ず下がる」ということになる。