Factor X再考(交差免疫について)

 新型コロナウイルスが欧米で感染爆発するのに対し、東アジア地域での感染状況は感染率、致死率とも桁違いに低位である。この理由の一つとして、「東アジア地域において今回の新型以前に発生していたコロナウイルス感染症SARSやMERSや一般の風邪)に対する抗体が交差免疫として働いているから」という説がある。ただ「交差免疫」と言われても、その構造やメカニズムが分かっていないので、この説の信憑性の度合いを判断できない。今日はFactor Xの第1候補である「交差免疫」について考えてみる。

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 上図は新型コロナウイルスのスパイク(コロナウイルスの突起)がACE2受容体に結合する様子を解析したコンピュータ画像である。ウイルスが受容体に結合する仕方を構造的に示しており、結合点が多くなって結合力が大きくなれば感染力が強くなることが想像できる。実際、新型コロナウイルスのスパイク蛋白質の614番のアミノ酸アスパラギン酸からグリシンに置き換わり感染力が上がったと言われており、この置き換えで蛋白質の形状が変化し結合力が強まったと思われる。この抗原(ウイルス)と受容体の関係は、そのまま抗原と抗体の関係を表すものと考える。

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 上図左は抗体の構造を示す。抗体は様々な抗原に合わせて可変領域を変化させて産生され、その可変領域が抗原に結合することで免疫としての機能を発揮することが示されている。また上図右は抗体の種類を示し、今回のような新型ウイルス感染症の場合は、最初に汎用早期対応型のIgM抗体が産生され、その後にIgG抗体が産生されることが示されている。12/3ブログで示した中和抗体はIgG抗体であり、長期残存・専門型抗体である。
 ここまでの知識でもって今日のテーマである「交差免疫」とは何かを考えてみる。東アジア地域においては昔からコロナウイルスによる感染症が単なる風邪として流行を繰り返していた。コロナウイルスは感染先で集団免疫が構築されると、スパイク蛋白質の形状を変化させながら抗体防衛網を突破し感染再拡大してきたものと考える。この新型ウイルスの襲来を受ける人間側の対応は、自然免疫系が突破された後の獲得免疫系の対応として、最初にIgM抗体が発動する。このIgM抗体はIgG抗体を5本束ねたような汎用抗体であり、可変領域に結合力が高そうな蛋白質を付けて、様々な種類のものが産生され発動される。免疫系はこのIgM抗体の可変領域に様々な種類の玉を装填し散弾銃的に撃ってみて、どの種の玉が一番効きそうかを見てからIgG抗体を産生する。ウイルスと免疫系の戦いがこのようになっていることが理解できると、「交差免疫」とは、「質の高いIgM抗体の為せるわざ」であると想像できる。
 IgM抗体は、過去の類似ウイルス感染の学習効果により、類似感染の多さに応じて質の高いものが産生されると思われる。従って、東アジア地域においては、過去に多種多様なコロナウイルス感染を経験した結果、質の高いIgM抗体を産生できる人が多数いたため、これが集団免疫となり感染爆発に至らずに済んだ というところが本日の結論となる。